学習指導要領改訂と近ごろの小学生事情

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2007年11月21日

  • 川岡 和也
午後9時、仕事からの帰り道、駅を降りて歩き出すと、目の前を子どもたちが右に左に行き交っている。そう、この時間帯は小学生たちの塾が終わって帰宅するピーク時なのだ。道は母親が運転するお迎えの車で渋滞しており、交差点では大手の塾の警備員たちが“みどりのおばさん”よろしく子どもたちの道路の横断を指揮して大声を張り上げている。小さな塾は駅まで先生が引率してくるところもあり、また自転車で帰る子どもや4~5人でキャーキャー話しながら歩く集団、何度もバイバイの応酬を繰り返す子ども等々、駅周辺はかなり賑やかなひと時を迎えている。

一人の子どもが週3回、夕方からこの時間まで塾に通っているのは珍しくなく、高学年にもなると週4回以上、6年生ではほぼ毎日どこかの塾に通っているケースもあるほどだ。なおかつ、子どもたちは勉強の合間を縫っていろいろな習い事もこなしている。水泳、サッカー、体操教室等のスポーツ系から、ピアノ、英語、理科実験教室まで、高学年を除けば塾以外に二つ以上の習い事をしている例もよく聞く。今の小学生は、かなり忙しい。

一方で小学校の授業の様子はどうだろう。ユニークな試みを実施する学校や工夫を凝らした授業展開を行なう先生も存在する一方で、結果的にただスローペースで内容の薄い授業になってしまっているケースが多い印象も拭えないのは事実である。学校の授業は休憩の時間だと言い放つ子どもや親がいるが、そう考えるにはあまりにも帰宅後の多忙な時間とのアンバランスが際立つ。小学校の授業でもっと深い内容まで踏み込んで教えてほしい、そうすれば塾に費やす時間が少しは減るだろう、と考える親は多いはずだ。

文部科学省から、中央教育審議会の「教育課程部会におけるこれまでの審議のまとめ(平成19年11月7日)」が公表され、意見募集が行なわれている。学習指導要領の改訂にあたっての考え方が述べられており、その中で小学校の授業時間数の見直しも提案されている。それによると低学年で週2コマ、3年生以上で週1コマの授業時間増となっている。“ゆとり教育”の目玉の一つで各学校の特色を出す3年生以上の「総合学習」の時間が週3コマから週2コマに減り、代わりに国語・算数・理科・社会・体育の時間数が少しずつ増え、5・6年生には新たに週1コマの「外国語活動(英語)」が総合学習とは別に設定された。

具体的な細かい改訂点は「審議のまとめ」の内容だけでは計りかねる部分があるが、例えば、円周率を“約3”とだけ教えて終わりにするようなセンスのない授業はなくなることを期待したい。また、授業時間中の内容が充実するのならば良いが、授業のペースはそのままで宿題など家での勉強量が単純に増えるというパターンは避けるべきだろう。仮に学校の授業に関連して家庭学習の量が増える見通しであれば、もう一方の塾での勉強に頼る部分が減らせる方向の内容でなければ、子どもたちがますます忙しくなってしまう。

少子化の中で火がついた塾や習い事の過熱振りは、簡単には収まらないであろう。このような状況のもと、小学校の授業の信頼回復は非常に重要な課題となっている。間違っても今回の学習指導要領改訂が塾の過熱に拍車をかける結果となってはならない。例えば外国語活動の教科増などは、小学生向けの英語塾や英会話教材の売り込みの恰好のきっかけとなることは容易に予想されるし、入学試験科目に英語関連の科目を設定する中学校が出てくる可能性もある。子どもの生活に直結している学習指導要領の改訂は、親、教師をはじめ現場の関係者の声や実感を踏まえ、学校内の教育だけにとどまらない子どもたちの生活スタイル全般にわたる幅広い議論が必要である。

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