アジア通貨危機後10年

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2007年10月25日

  • 尾野 功一
楽観論?
アジア通貨危機が発生したのは1997年である。危機の遠因は、不安定な海外の短期資本に依存して、過剰な設備投資と資産価格の高騰が誘発されたことであった。アジア地域の混乱は、米国や日本を含め世界の経済と資本市場に少なからず影響を与えた。大型金融機関の倒産など金融不安が高まっていた当時の日本にとっては、通貨危機の逆風はより影響が強かった。

アジア通貨危機から10年が経過した現在、サブプライム問題に揺れつつも、世界経済には楽観的なムードがまだ強く残っている。危機後のアジアは、海外資本の流入に依存する(経常赤字)状態から脱し、10年前と同種の危機が訪れる可能性は大きく低下している。本来なら懸念されるはずである原油価格の高騰も、中東やロシアなどの主力原油輸出国には経済成長の原動力となっている。東西冷戦終結後に市場経済へ移行した東欧地域は、新たな製品の生産拠点として浮上し、インドはソフトウェア関連産業に強みを持ち高成長を遂げている。さらに、ブラジルを中心とした南米地域だけでなく、グローバル化の波になかなか乗り切れなかったアフリカ地域も、注目を浴びるようになっている。

くすぶる疑念
かつてのように、米国の牽引力が強く作用する世界経済の構造と比べると、経済成長のエンジンは多様化している。一般的には、多様性は抵抗力を高めるものと解釈されよう。

だが、多様性や抵抗力は懸念を消し去るのであろうか。現在のアジア地域におけるGDPに対する投資比率は、過剰投資とみなされている通貨危機直前の1990年代半ばと同程度にまで上昇しているが、これは中国を中心としたアジア経済の強固な経済構造の結果であるのか? 原油価格の高騰は、世界的なインフレを招くことなく産油国に好況をもたらすだけにとどまるのか? 原油輸出収入をドルで受け取る一方、米国よりも欧州との貿易比率が高い中東地域で、ほとんどの国が米ドル固定・連動型の為替制度を採用することに歪みはないのか? また、人民元の制度変更が注目される対外不均衡問題だが、通貨危機時のアジアよりも高水準の赤字を記録する国が多く存在し、実質為替レートが総じて高い東欧地域に不安はないのか? 一次産品国としての有利さが強調されるオーストラリアやニュージーランドは、高水準の経常赤字は無視されるべきか?

現在の世界経済は、過去30年間で最も力強いことは確かである。だが、IMFのデータによると、この30年間で3%台後半以上の高成長が持続したのは最長でも6年である。2007年で5年目となる現在の高成長局面が、さほど遠くない時期に転機を迎えても何ら不思議ではない。世界経済の連携が強まるグローバル化により、ある地域の経済変動が多くの地域に波及しやすくなっている。現在の世界的な高成長にもそれが表れているのであれば、経済の下方リスクが生じたときには、予期せぬかたちで世界的に影響が波及することへの警戒が必要である。

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