オイルマネー、原油枯渇後のビジネス戦略

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2007年10月10日

世界の金融市場を震撼させたサブプライム問題の悪影響の一つは、M&Aが冷え込んでしまったこと。特に金融機関からの融資に依存する大型案件がめっきり減少した。ところが、そんな中でM&A合戦がむしろ加速しているセクターが欧州にある。買収ターゲットとなっているのは取引所である。

実は取引所はサブプライム問題発生で利益を得ている数少ない業種の一つといえる。リスク許容度の低下、より低リスクの投資商品へ乗り換える動きが活発となり、取引所の売買高は軒並み膨らんだ。例えば欧州最大のロンドン証券取引所(LSE)の売買高は、7月が前年比+72%、8月+82%と大幅拡大。例年であれば7月、8月は投資家が夏休みを取るため売買高が減少するのだが、今年はこれが減少せず、8月はむしろ拡大した。

目下のところ、買収ターゲットになっているのはスウェーデンのOMXである。OMXはスウェーデン、フィンランド、アイスランド、バルト3国の取引所を傘下に持つ金融サービス会社で、さらに世界の60あまりの取引所に取引システムを提供している。その技術力の高さで買収ターゲットとして注目された。そして買い手に名乗りを上げているのが、米国のナスダック、アラブ首長国連邦のドバイ取引所、カタールの国営投資会社である。

最初にOMX買収に動いたのはナスダックだが、同社はそもそもはLSE買収に意欲を燃やし、LSE株を31%まで取得した。ところが、最終的なLSE株主の承認が得られずにこの買収計画を断念。代わって今年5月にOMX買収提案を出し、OMX経営陣もこれを受け入れた。なお、ナスダックが欧州取引所の買収に意欲的なのは、ライバルのニューヨーク証券取引所が今年初めにユーロネクスト(フランス、オランダ、ベルギー、ポルトガルの取引所を傘下に保有する持ち株会社)と合併したことへの対抗措置である。

そこに8月にドバイ取引所がOMX買収計画を発表した。ただし、9月になってドバイ証券取引所とナスダックは協調路線をとることで合意。ドバイがOMXを買収した上で、取得したOMX株とナスダック株を交換し、新しく誕生するナスダックOMXに資本参加する計画となった。同時に、ドバイ取引所がナスダックが保有するLSE株28%を買い取ることが発表された。ところが9月末に今度はカタールがOMXとLSEへの資本参加に名乗りを上げ、ドバイ・ナスダック連合はOMXの買収提案額の引き上げを余儀なくされた。

アラブ首長国連邦とカタールは、どちらも原油高を背景に潤沢なオイルマネーを持ち、その投資先を探している。ゆえにサブプライム問題とは関係なくM&Aを進められる強みを持つが、両国が取引所株の取得に熱心な背景には、その原油への依存度を低下させたい思惑がある。オイルマネーが潤沢なうちに将来性の高いビジネスを育てるべく、産油国各国は力を入れている。その象徴的な存在が、観光産業育成に力を入れたドバイの高級リゾート地建設である。さらに中東の金融センターという将来性の高い地位を目指して、ドバイとカタールの競争が欧州を舞台に繰り広げられようとしている。注目されたのが、取引システム構築で先端を行くOMXであり、金融センターとして成功しているロンドンのLSEであるのは当然のことといえよう。

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山崎 加津子
執筆者紹介

金融調査部

金融調査部長 山崎 加津子