2007年09月19日
筆者も含め近頃、多くの中年男性がおなか周りを気にしているのではないだろうか。これには、マスコミ等で「メタボリックシンドローム(※1)」が話題として取り上げられていることが大きく影響していると思う。言うまでもなく、生活習慣病の増加は医療財政を圧迫する。改革なき場合には、医療費は10年後に40兆円、20年後には56兆円に達すると厚生労働省は試算する。厚生労働省はメタボ対策の目玉戦術の一つとして、「高齢者の医療の確保に関する法律」で定めた、医療保険者(健康保険組合等)による「特定健康診査・特定保健指導」(以下、「特定健診・保健指導」)を2008年4月から実行に移す。対象は、40歳から74歳までの被保険者と被扶養者で、その数ざっと5,600万人。健診結果から生活習慣病予備軍が洗い出され、生活習慣改善や運動プログラムの指導に医師、保健師、管理栄養士などが動員される予定である。この事業の導入は、医療費増に早い段階からブレーキをかけ、医療費を適正レベルに保つことを狙ったものである。
企業に対しては、従来から労働安全衛生法のもとで、従業員に対する年一回の定期健康診断の実施(職域定期健診)が義務付けられている。これに、新たに健康保険組合が実施する「特定健診・保健指導」が加わることになる。そこで提案なのだが、企業においては、この特定健診・保健指導の導入を契機に企業と健康保険組合が連携し、従業員の健康増進に向けた全社一体となった強力な戦略組織の構築を試みてはいかがだろうか。そして、この取り組みを促進するには、投資家の関心を喚起するのが有効だろう。社員が元気で健康になれる企業は投資家にとっても魅力的な企業に映るはずである。企業の予防医療活動が、環境への配慮と同様に、投資評価項目の1つに挙がってくれば、おのずと企業自身のモチベーションは高まるというものだ。
企業の予防医療活動を投資のための尺度とするには、「環境会計」のコンセプトが応用可能である。アンチエイジングドクターズ株式会社の大森会長(前徳州会・専務理事)が同社ウェブサイトなどを通じて、「企業においては環境会計と同様に、健康会計の導入とCHO(チーフ・ヘルスケア・オフィサー)のポスト設置が必要」と訴えていることが注目される。もう一歩進めて、従業員の健康度、健康増進意識や活動度、企業の取り組み状況とそのパフォーマンスなどを社会に向けて発信する、環境報告書ならぬ「健康文化報告書」の発信を、筆者は企業に提案したい。当然、個人情報保護に配慮した上での情報発信であることは言うまでもない。いずれにしても、まもなく開始される「特定健診・保健指導」が、日本で本格的な予防医療が始まる歴史的な契機となることを願ってやまない。
(※1)日本の専門医学会8学会が定めた診断基準によると、「おへそ周りが男性で85センチ以上、女性では90センチ以上で、高脂血症、高血圧、高血糖のうち、2つ以上」に該当すると、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高い「メタボリックシンドローム」と診断される。
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