学校債が有価証券指定へ

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2007年08月15日

  • 内藤 武史
昨年6月7日に「証券取引法等の一部を改正する法律(投資家保護のための横断的法制の整備)」が成立し、本年9月には「金融商品取引法」が本格施行される。この中で、学校法人にとって目玉となっているのが学校債の有価証券指定である。

平成13年の文部科学省高等教育局私学部私学行政課長通知により、学校債は広く一般人を募集対象とすることが可能となったが、当該通知によっても消費貸借契約に基づく借入金であることに変わりはなく、印紙税法基本通達や所得税基本通達では学校債は商法の規定に基づき発行される社債には該当しないことが謳われている。したがって、学校債は証券取引法2条1項に定める有価証券には該当せず、証券会社が引受人となることは不可能であった。一方、国立大学法人は国立大学法人法33条1項において、「当該国立大学法人等の名称を冠する債券を発行することができる」ことが規定されており、国立大学法人債は証券取引法2条3項の「特別の法律により法人の発行する債券」に該当することから、有価証券としての債券発行が法的に担保されている。加えて、「債券の発行に関する事務の全部又は一部を銀行又は信託会社に委託することができる」こととなっており、事務手続きの一切を代行する受託会社の設置が可能となっている。ちなみに、私立学校法ではこうした条項が存在せず、銀行等が管理会社になり得るか不透明である。

以上のような経緯を経て、冒頭で述べたような学校債の有価証券指定が実現される運びとなったわけであるが、その背景には学校債と国立大学法人債の法制度上の格差是正に対する大学法人サイドの働き掛けがあったものと推測される。一方、国立大学法人サイドとしては、運営費交付金の配分方法に成果主義が導入される可能性が出てきたことから、資金の外部調達、ひいては債券発行が視野に入ってきた。しかしながら、現状で国立大学法人の債券発行を文部科学省が認可することはイコールフッティングに反することから、学校債を有価証券に指定することでイコールフッティングを確保し、国立大学法人債発行の環境を整えることが主たる目的であると考えられる。

さて、金融商品取引法施行令における「有価証券の定義」では学校債を2つに区分しているが、「金融商品取引法制の政令案・内閣府令案等の概要」ではこれらを「流動性の高い有価証券」及び「流動性の低いみなし有価証券」として指定することとなっている。前者は国債や地方債、社債、株式などの流動性の高い有価証券としての学校債がイメージされる一方、後者は貸付け債権などの流動性の低い債権がイメージされる。

それでは金融商品取引法施行後、学校債発行は活発化するか。各種報道によれば、大学法人では法政大や早稲田大、立命館大などが起債に意欲的とみられる。但し、大学法人全体でみれば、平成17年度の自己資金構成比率は84.5%に達しており、現在の財務状況からすると外部調達意欲が旺盛とは言い難い。また、実際の発行にあたってはディスクロージャーの徹底が求められるが、そうした要求に耐え得るのかといった問題も指摘できる。加えて、先述のように私立学校法では、債券発行に関する事務手続きの委託条項が規定されていないため、現状では実際の発行は困難とみられる。ただ、この点については、文部科学省は個別大学法人の寄付行為の範囲内で対応可能としている。

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