米国SOX法における制度のゆり戻しの動き

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2007年08月06日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 吉田 信之
米国SOX法404条にゆり戻しの動きが起きている。ゆり戻しの動きとは、主に同法対応に伴う上場企業側の過大なコストの問題を解決するべく、SECやPCAOB(※1)が相次いで新ガイドラインや基準の改訂案を公表したことである。なかでも、2006年12月に、SECが経営者向け内部統制評価ガイドラインの公開草案を公表し、PCAOBは監査基準(AS2)改訂版のドラフトを公表した。それらはともに若干の修正を経て、2007年5月23日にSECの経営者向け評価ガイドラインが、同月24日に改訂版監査基準(AS5)がそれぞれ承認されている。

今回の改訂の主なポイントは、(1)SECが経営者向けのガイドラインを公表したことで、経営者がどこまでの作業を行わなければならないかを明示したこと、(2)内部統制の最重要項目に監査の焦点をあてることを明示したこと、(3)監査人が自身のテスト作業を軽減するために、内部監査人を含む他者の作業を適切に利用することが奨励されたこと、などである。この改訂により、従前に比べて作業の効率化が図られることが期待される。

しかし、いくつかの課題も残されている。一つは、米国SOX法導入の直接的なきっかけとなったのがエンロン、ワールドコムといった大企業の破綻であったため、米国SOX法404条が、資金的にも人員的にも余裕のある大企業を想定して作成されている面があることである。この点において、小規模企業は、大企業と同じように内部統制の構築、維持、評価を行うのが困難であるといえる。現在、米国SOX法関連規制では、小規模会社は、「その規模や複雑性に応じた監査を実施するように監査人を方向付ける」といった記載にとどまっており、今後公表が予定されている小規模会社向けのガイドラインに詳細は委ねられている。

もう一つは、米国SOX法404条対応に伴う過大なコストが、新規公開企業の減少(海外他市場への上場)や既存企業の上場廃止といった深刻な問題をも引き起こしていることである。

今回の米国SOX法関連規制の改訂が、どの程度コストの削減に資するものとなるかは未だ不透明ではあるが、米国SOX法が有効な制度として機能し、ひいては新規公開企業を再び米国市場に呼び戻すことができるか否かは、今後も継続的に注視していく必要があるといえよう。

(※1)The Public Company Accounting Oversight Board(公開会社会計監視委員会)

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吉田 信之
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