オフショアリングの変遷からみるグローバル化対応

RSS

2007年06月14日

  • 古井 芳美
海外へのアウトソーシングであるオフショアリングが、企業のビジネスの方法を変化させたように個人の生活にも入り込み始めている。先日の新聞では、オフショアリングが個人的な用事にも利用されるようになってきたとの記事があった。このような、「個人的なオフショアリング(Personal offshoring)」は、オフショアリングのほんの一部に過ぎない。しかしながら、インスタントメッセージや電子メールを活用することで、今後も対面で行う必要のない作業がさらにオフショアリングされると言われている。既に、子供の算数の家庭教師、秘書、ソフトボールチームのT-シャツのデザイン、個人のウェブサイトのデザイン、結婚式の招待状作成といった信じがたいほど多くの細かな仕事が対象となってきている。

個人的なオフショアリングは、企業が導入した理由と同様、コスト削減が目的である。しかし企業では、次の段階のオフショアリングが行われるようになってきた。つまりコスト削減ではなく、優秀なスキルをもった人材の確保が目的となってきているのである。かつては、単純で重要でない業務(ノンコア)がオフショアリングされていたが、最近では、顧客対応、人事、法務という複雑なコア部分の業務も対象となってきている。例えば、1990年半ばからオフショアリングを行っているあるカード会社では、コスト削減のため財務会計のバックオフィスから始まり、IT開発、カスタマーサービスといった分野をオフショアリングしていた。その後、数学の博士課程を持った人材を数名採用しリスク管理部門のモデリング支援、2001年頃には経営低迷から脱却するためのリエンジニアリングプログラム支援といった、まさにビジネスの根幹の部分でも利用を進めている。このように、オフショアリングは「テクノロジー」から、「人材」のビジネスとなったといえよう。

他国の優秀な人材の登用をオフショアリングで始めた米国では、知的人材が不足し押し寄せるグローバル化の競争に勝てないのではないかと懸念する発表が多くなされている。米国のエンジニアリング分野における博士課程卒業生の60%以上は米国国籍を持たない。そして、修士課程・博士課程を卒業した人材は、オフショアリングが増加するインドと中国で急増し続けている。生活の中にまでオフショアリングが浸透し始めたように、グローバル化が社会全体に広がってきたといえる。日本企業も今後、急激にグローバル化が進むことを想定した対策を練る必要があり、あらゆる分野で各国の優秀な人材を利用できる体制を整えることが求められるだろう。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。