普及に向かう電子カルテシステム

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2007年05月15日

  • 上村 武
電子カルテシステムとは、従来、医師が紙のカルテに記録していた診療記録などの診療情報を電子的に記録、保存するための情報システムである。紙のカルテを用いた情報管理と比較して、カルテの保管スペースを削減できること、オーダリングシステム等と連携(統合型電子カルテ)させることで医療事務の効率化を進めることができること、コンピューターネットワークを用いることで医療スタッフ間の情報共有が容易になること、そして、診療情報が電子化されているため、診療方法の改善などを目的とした診療情報の大規模な収集や分析が容易になることなど、さまざまな利点がある。

政府は、平成13年度の「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」で、電子カルテシステムの普及は医療の質と効率の向上に寄与するとして、平成18年度までに入院ベッド数400床以上の病院および全診療所の6割以上に電子カルテシステムを普及させる、という目標を掲げた。

しかし、電子カルテシステムの平成17年10月1日時点における普及率は、病院全体で5.2%、400床以上の病院で16%、診療所全体では6.3%(※1)となっており、政府の目標との開きは大きい。普及があまり進まなかった主な要因は、導入によるメリットが明確でなかったことである。加えて、400床以上の病院に導入される統合型電子カルテでは、導入に備えた事前準備と導入後のシステムの習熟に医療スタッフの多大な負担が必要とされたこと、導入コストが高額であったことなどが普及の妨げとなった。

このような結果を受け、政府は平成18年の「IT新改革戦略」で新たな普及目標を設定し、平成20年度までに400床以上の病院のほとんどに、平成22年度までには200床以上400床未満の病院のほとんどに、電子カルテシステムを含んだ医療情報システムを普及させる、という目標を掲げている。

今後の展望

現時点では、政府の新しい目標が達成されるかどうかは不透明だが、電子カルテシステムの導入コストは近年低下傾向にあること(※2)、導入施設の増加により導入のメリットが徐々に明確になってきたこと、導入の後押しとなるような診療報酬の改定が平成18年に行われた(※3)ことなどから、長期的には、電子カルテシステムの普及は進んでいくものと考えられる。

とはいえ、医療機関の間での情報共有に向けた診療情報の標準化や、個人情報保護のための情報セキュリティー規格の統一など、政府主導の取り組みが求められる課題も多く残されている。今後、これらの課題の解決を見通すことができる段階になれば、電子カルテシステムの本格的な普及と関連市場の拡大が期待できると考えられる。

(※1)厚生労働省「医療施設調査」(平成17年)

(※2)主因は、仕様変更をあまり実施せずに導入できる製品が増加し、製品の平均価格が低下したことである。以前は、医療機関ごとに仕様を変更することが多かった。

(※3)診療報酬請求を電算処理している医療機関に初診料の加算を認めるというもの。医療機関が選択的に具備すべき要件の一つに、電子カルテシステムの導入がある。

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