日本版SOX法の行方

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2007年04月18日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 吉田 信之

今年の2月15日、金融庁企業会計審議会より「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準ならびに実施基準」が公表された。いわゆる「日本版SOX法」について、これまで様子見を決め込んできた一部の上場企業の経営者たちも、いよいよ待ったなしといった感がある。

一部の企業経営者たちが様子見を決め込んでいたのにも理由はある。詳細な基準や指針が公表される前に財務報告に係る内部統制の構築作業を開始して、不必要な作業やコストが発生してしまうことを避けたいと考えていたのである。そしてなかでも、今回の日本版SOX法のモデルになったとされる、米国SOX法404条においてゆり戻しの動きが起こってきていることが、日本版SOX法に対する不透明感を増幅させていた。

米国SOX法404条におけるゆり戻しの動きとは、主に過大なコストの問題を解決するべく、SECやPCAOB(※1)が相次いで新ガイドライン案や基準の改訂案を公表したことである。従来米国では、経営者向けの内部統制評価ガイドラインを公表していなかったため、経営者は監査人向けのガイドラインをもとに内部統制の構築作業を実施してきたが、その結果、監査人が保守的な検証作業を要求したことも相まって、枝葉にわたる部分までの膨大な文書化作業を行うことになったといわれている。

また小規模企業では、大企業と比較して、内部統制の構築から維持、評価に至るまでの作業を行う人的、資金的な限界があり、SOX法404条の適用を免れるために米国市場への上場を回避する、といった動きまでみられていた。

今回の日本版SOX法では、米国SOX法404条の反省点を踏まえたうえで、日本的な企業風土を加味した基準づくりがなされている。とはいえ、実際に企業自身は、自社を取り巻く企業環境の変化に応じて内部統制を常に見直し、改善していかなければならない。企業の内部統制だけでなく日本版SOX法という制度そのものについても、環境や状況の変化に応じて適宜必要な手当てがなされていくことにより、より実効性のある制度となることを期待したい。

(※1) The Public Company Accounting Oversight Board(公開会社会計監視委員会)

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吉田 信之
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