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進化する米国401(k)プランとリスクマネーの供給

2006年12月12日

深澤 寛晴

米国401(k)プランは本年11月10日に25周年を迎え、老後資金の大半を同プランに依存する世代の引退が間近に迫っている。そんな中、企業が401(k)プランを提供しているにも関わらず、従業員が老後に向けて十分な資産形成を行っていないケースが少なからず存在し、問題となっている。最大の原因は関心の低さだ。積極的な株式投資で知られる401(k)プランだが、株式投資を全く行っていない加入者も少なくない。無論、株式投資を行わないこと自体は問題ではない。投資リスクを取らなくても、毎月プランに積み立てる額を増やすことで十分な老後資金を蓄積することは可能だ。問題なのは運用や積立額に関して十分な検討を行っていないケースだ。このようなケースでは運用が元本保証の生保商品やMMF等の低リスク/低リターンに偏り、結果として老後に向けた資産形成が不十分となる可能性が高い。

このような問題に対応するため、米国政府は投資アドバイスやデフォルト投資を促す法整備を行った。投資アドバイスは、個別ファンドの推奨まで踏み込む点で従前の投資教育と異なる。また、デフォルト投資とは、401(k)プラン資産の投資に関して自ら明確な意思表明をしない加入者に代わって企業が行う投資だ。投資成果は加入者に帰属する、すなわち損失が発生しても企業はそれを補填する責任を負わない。若い間は株式比率を高めに保って高いリターンを追及するが、引退が近付くにつれて債券の比率を高め、リスク抑制に重心を移す運用が想定される。詳細は確定していないが、このようなリスク/リターンの調節をファンドの中で自動的に行うライフ・サイクル・ファンドに加え、プロに任せるマネージド・アカウンドと呼ばれるサービスも認められそうだ。

米国では個人の資産運用をサポートするサービスが普及しており、市場へのリスク・マネー供給に重要な役割を果たしてきた。投資アドバイスやマネージド・アカウントはこのようなサービスの代表格だ。今回の法改正をきっかけに、これらのサービスを提供する金融機関等の間では、401(k)プランを対象としたサービスを充実化させる動きが出始めている。従前、このようなサービスは中高所得層に偏りがちだったが、今後は401(k)プランへの普及を通じて低所得層に拡がる可能性がある。ベビー・ブーマーの引退を控え、リスクマネーの供給が先細る懸念が指摘されるだけに、リスクマネーの供給元を拡大する効果も期待されよう。

自己責任という401(k)プランの原則を踏まえると、このような問題に対しては情報提供や投資教育を通じて従業員の関心を高める、というのが本来の解決策だ。しかし、25年の実績を踏まえ、米国401(k)プランは「本来の解決策」だけでは「加入者の老後に向けた資産形成」という目的は達成できない、という結論に達したようだ。今回の法整備は、401(k)プランにとっては大きな方向転換の第一歩と言えそうだ。

翻って日本の確定拠出年金制度(日本版401(k))を見ると、資産の過半が銀行や生保が提供する元本確保商品に投資されて(※1)おり、年金資産の投資に対する関心の低さは米国以上のようだ。制度の歴史が浅く、当面は確定拠出年金を主たる老後資金とする人は少ないと考えられるが、米国よりも速いペースで高齢化が進むから、米国同様の方向転換を迫られるのは時間の問題と考えられる。確定拠出年金資産に限らず、日本の個人金融資産は預貯金に偏りがちであり、これを(合理的なリスク管理の下で)リスクマネーとして市場に供給することは、証券市場のみならず経済活動を活性化させるためにも重要だ。日本の確定拠出年金において投資アドバイスやデフォルト投資が普及すれば、個人金融資産の動向も影響を受けよう。近年、日本でもSMAなど個人の資産運用をサポートするサービスが普及しつつあり、方向転換に向けた準備は着実に進んでいる。足元では確定拠出年金資産は2兆円強に過ぎないが、これが日本経済や証券市場を支える日は遠くないのかもしれない。

(※1)企業年金連合会調べ(2006年)。

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