住宅はもういらないのか

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2006年12月05日

  • リサーチ本部 執行役員 リサーチ担当 鈴木 準
デフレを克服しつつある日本経済は、多くの問題を抱えながらも明るさを取り戻した。企業の設備投資マインドが前向きになっているのと同様に、家計の住宅投資もじわじわと回復すると考えられる。

近年の住宅投資は低水準である。1997年ごろからの落ち込みが著しく、民間住宅投資がGDPに占める割合は91年度~96年度の平均で5.1%だったが、00年度~05年度は3.7%。90年代後半以降は倒産や失業者が増加し、雇用不安の高まりと家計所得の低迷が住宅取得や建て替えを委縮させたのだろう。

その結果、使用による経済的減価を考慮した実質住宅純ストックを人口1人当たり平均で見ると、前年より減少する事態が7年連続で起きている。住宅投資は、日本人全体がいわば貧しい家に住むようになるほど低迷しているといえる。家計の経済環境が改善すれば、陳腐化した住宅は建て替えられ、より広く、より付加価値が高い良質な住宅が求められるようになるだろう。

人口減少・高齢社会の住宅投資

こうした議論に対しては、人口が減るのだから住宅はもう不要だという反論がある。すでに空き家が1割以上あるのも事実である。

しかし、第一に、住宅を考えるときに重要な世帯数がピークを迎えるのは、人口のピークから10年程度後ずれする見込みである。また、ピークをつけた後も世帯数は人口ほど減る見通しにはなっていない。

第二に、日本の住宅総数に占める「居住世帯あり」の割合は87.0%で、「居住世帯のない住宅」が13.0%である(※1)。住宅金融公庫の資料によると、諸外国における居住住宅の割合は米国:87.6%、フランス:83.1%、ドイツ:92.7%である。つまり、日本の空き家率が特別に高いわけではない。

第三に、大修理を要する住宅や危険または修理不能な住宅が400万戸程度はあるとみられ、住めない(本来なら住むべきでない)住宅が住宅総数には含まれている。また、家屋の耐震性に関心が高まる中、いわゆる新耐震基準(昭和56年基準)に照らすと、03年時点で1,150万戸が耐震性不十分と国土交通省は推計している(※2)

日本の住宅は「うさぎ小屋」といわれてきた。居住室の広さ・独立性、設備の充実、防犯性、採光性、遮音性など、充足するどころか住宅に対する欲求はいっそう強まっている。バリアフリーでユニバーサルデザインを備え、省エネ性能を有し、災害に強く、美しい街並みをつくる住宅が求められている。住宅の寿命(※3)は、英国:75年、米国:44年に対し、日本は30年だという。耐久性の高い新築だけでなく、適時に一戸建てのリフォームやマンションの修繕をすることで、既存住宅の価値が維持されることも必要だ。

(※1)総務省「平成15年住宅・土地統計調査」

(※2)国土交通省のウェブサイト図10参照。

(※3)国土交通省推計による滅失住宅の平均築後年数。

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鈴木 準
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