ソニーとコーポレートガバナンス

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2006年11月10日

  • 藤島 裕三
こ の秋のシーズンは毎週のように、いくつかの大学で講師を務めている。内容は小職の専門分野である、コーポレートガバナンス(企業統治)論が中心となる。と ころで聴講する学生の中には、企業にとってガバナンスが必要であることが、どうも腑に落ちないといった様子が散見される。察するにこれは、多くにとってガ バナンスの代名詞であるソニーが近年、業績不振に陥っていることが影を落としているのだろう。

それでは、ソニーにおけるコーポレートガバナンス改革は、全く効果をあげていないのだろうか。同社改革の第一歩は1997年における執行役員制の導入だ が、以後の10年間で時価総額は約7割増加している。その間にITバブルが発生・崩壊したことで株価暴落のイメージが強いが、長期的には企業価値の創出に 成功したといえるのではないか。

ソニーの改革による効果として、具体的には以下の3点が挙げられる。
(1)
電機メーカーから総合的なIT企業への脱皮 に舵を切った
(2)
ゲームや映画など新規ビジネスを収益源にまで育て上げた
(3)
既存ビジネス不振の責任論から経営トップ交代を断行した

それぞれガバナンス改革による効果のうち、(1)は経営トップに対する意思決定権限の集中、(2)はビジネス責任者に対する業務執行権限の委譲、(3)は 取締役会による客観的な監督機能の確保、が有効に機能した証左である。権限集中・委譲が機能して新規ビジネスが成功した半面、経営努力に偏りが生じたのか 既存ビジネスの業績が停滞したため、監督機能が働いてトップ交代が実現したというのが、ソニー・ガバナンスの評価ポイントと考える。

もちろんベストは、既存ビジネスの業績を維持しつつ、新規ビジネスの育成を達成することだろう。それが常にできるならば苦労はない訳であって、できなけれ ば迅速に経営体制を刷新するまでである。実際、エンターテインメント路線を確立した功労者が退任したのだから、同社のガバナンスは適切に役割を果たしたと いえよう。

ここまで説明すると、学生諸君も概ね納得してくれる。ソニーはコーポレートガバナンスの面でも、やはり突出したイノベーターなのである。リチウム電池の件 など足下は厳しい状況にあるが、引き続きわが国企業をリードしてほしいと期待している。

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