欧州格付論争

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2006年09月22日

  • 瀬越 雄二

エンロンまたはワールド・コム事件に続き、2003年、イタリアにおいて、大手食品会社パルマラット社(中田英寿が在籍したサッカーチーム「パルマ」の親会社)の大型粉飾経理・詐欺・会社倒産事件が発生した。同事件はイタリアを越えてEU金融証券市場において、コーポレートガバナンス、市場規制、金融機関規制等の広範な問題を提起した。これらの諸問題のひとつに、破綻企業のデットファイナンスに関連して、格付機関の問題がある。欧州委員会は2006年3月11日付で格付機関に関するコミュニケーションを公表し、「現行EU法制は本件が提起する問題を十分にカバーしており、とりあえず、格付機関に関する新たな政策立案の必要はない」として、本件に決着をつけた。

そもそも、格付機関に係る始原的問題は、欧州委員会が2003年に作成したインサイダー取引および市場操縦に関するワーキングペーパーから発生した。同ワーキングペーパーは格付機関による格付を「レコメンデーション(recommendation)」と規定し、また、レコメンデーションを「格付を含む投資戦略に関して推奨または示唆するリサーチ情報またはその他情報」と定義し、ブローカレッジ・レポート、リサーチレポート、証券市場情報等と同列に取り扱った。それに対して、世界の格付市場の80%以上を占有するムーディーズ社およびスタンダード・アンド・プアーズ社は、「格付とはレコメンデーションではなく、発行体の相対的信用力に係る予想意見(a forecast opinion about relativecreditworthiness)」であり、「格付情報は投資家が投資決定を行うためのひとつの参考要素(意見)に過ぎない」、また「格付の公表は特定有価証券の推奨行為と見做すべきではない」と反論し、欧州委員会は両者の主張を受け入れた。

上記のような格付に関する市場の不理解は、間接金融が依然大きな比重を占める欧州ならではの現象であり、米国では考え難い。では、欧州と同様に、間接金融が主流を占める我が国の金融資本市場ではどうであろうか。市場関係者は同様の過ちを犯す可能性は有りそうだ。本年3月、金融庁はバーゼルIIに関連して保有資産の信用リスクウエートの判定基準となる格付けを行う適格外部格付機関5社を公表した。これは、バーゼルII関連格付として、格付機関には新たな事業分野となる。換言すると、我が国における格付機関の役割は今まで以上に重くなる。また、バーゼルIIは、従来、格付機関が行ってきた勝手格付を禁止の方向に動いてきる。我が国も例外ではない。しかし、これらの問題に関して、公開情報はあまりに少ない。金融制度改革は着実に進んでいる昨今であるが、我が国でも改めて、格付機関の重要性に鑑み、格付の役割・重要性、格付の質、格付プロセスの透明性、格付機関の独立性・利益相反性、格付機関の監督、格付産業の競争性・独占性等が検討されるべき時期に来ているのではなかろうか。

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