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消費者の目線

2006年09月20日

古頭 尚志

『消費者基本計画』という言葉をご存知だろうか。これは、消費者基本法(※1)に掲げられた消費者政策の基本理念、「消費者の権利の尊重」「消費者の自立支援」を具体化するため、政府によって策定された指針のことである(※2)

基本計画には3つの基本的方向として(1)消費者の安全・安心の確保、(2)消費者の自立のための基盤整備、(3)緊要な消費者トラブルへの機動的・集中的な対応、が掲げられている。このうち、特に注目されたのは(2)である。すなわち、「消費者基本法」の前身が「消費者保護基本法」であったように、従来の消費者政策はいわばパターナリスティックな(※3)「保護」に重点が置かれていたのだが、これを転換し、「消費者の自立」を促すための基盤整備に軸足が移っているのである。

消費者基本計画の最近の実行例としては、例えば「消費者団体訴訟制度」の導入に関する消費者契約法の改正がある(※4)。消費者団体訴訟制度とは、「消費者の被害の発生・拡大を防止するため、一定の要件を満たす適格消費者団体に、事業者の不当行為の差止請求権を認める制度」のことで、来年6月7日に施行される(※5)

検討の過程では、適格消費者団体による損害賠償請求を認めるのか、という問題も議論された。認めるという立場からは、消費者被害は多数・少額という特徴があり、被害者個人による損害賠償請求は困難である点が論拠とされた。
「少額訴訟制度等の整備による対応状況を注視することが必要」として今回は見送られたが、大変難しい問題である。導入によって消費者の利便性は高まるかもしれないが、やや行き過ぎという気がしないでもない。前述の通り、従来の「保護」偏重の消費者政策を「消費者の自立」へと改めたところであり、どこまで「保護」するかは極めて慎重に判断する必要があるだろう。

こうした問題の検討には、「消費者の目線」で考えることが必要になる。「消費者の目線」と聞くと、一般にはマーケティングなど、主に民間サイドの話のように感じられる。しかし、「消費者の自立」を目標とした消費者政策を進めていくには、立法や行政サイドにとっても「消費者の目線」を意識することが重要になってくる。消費者基本計画には「消費者教育」も含まれており、消費者の知識水準が上がれば当然「目線」も変わってくる。そんなことも織り込みながら、適切に「保護」の内容や範囲、適用期間をご判断いただきたい。

それにしても、「消費者の目線」で考えるというのは意外に難しい。我々も一消費者なのだが、ルーティンワークとして接している商品等については、いつの間にか詳細な点までもが「当たり前」になってしまい、一般的な消費者の目線を忘れてしまう。個人レベルならまだ良いが、これが組織レベルになってしまうと具体的な被害の発生につながりかねない。

例えば、外部の方からお問い合わせを受けた時の会話を振り返っていただきたい。もちろん相手にもよるが、専門用語や業界用語、社内用語が随所にちりばめられているようだと黄色信号である。難しいことなのだが、赤信号になる前に、一消費者としての目線を思い出す必要があるだろう。

(※1)従来の「消費者保護基本法」を改正し、平成16年6月に公布・施行。

(※2)平成17年4月閣議決定。平成21年度までの5年間を対象とする。

(※3)父親的温情主義的、父権主義的、などと訳されるが、「ある者が、当人の意思に関わりなく、当人の利益になると考えて、当人に代わって意思決定をする(ような)」という意味である。

(※4)消費者基本計画の中では、9つある重点事項の1項目として「消費者団体訴訟制度の導入」が挙げられている。ちなみに金融商品取引法も「分野横断的・包括的な視点に立った取引ルールづくり」「金融分野における投資サービス法制の検討」として計画に盛り込まれている。

(※5)内閣府の『消費者の窓』で様々な情報提供が行われている。

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