引き継ぎ力

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2006年07月21日

  • 本谷 知彦

ビジネスの世界では、業務や商品・サービス提供の継続力の重要性がしばしば問われる。継続力は企業の組織力に依存するところが大きいが、その構成要素のひとつとして、「引き継ぎ力」という企業能力が少しばかり重要ではないかと思うことがある。

商品・サービスは新規プロジェクトなどを通じた企業の創出力により、関係者の熱意と努力の結果、産みの苦しみを経て創出される。創出段階では、“こんなサービスが絶対に重要だ”、“お客様はこのような商品を求めているはず”という創出者の情熱が大いなるドライビングフォースになり、立ちはだかる万難を次々に排除する。しかし、産み出されて以降、当該業務は部分的に、あるいは全部が早かれ遅かれ様々な組織や人間に引き継がれていくものだ。そして、この引き継ぎの巧拙が、その後のサービスの成長に影響を及ぼすことが時折あると考えられないだろうか。

引き継ぎ以降のシナリオは、大きく3つのケースが想定される。一つ目は、上手く引き継げずに最終的に商品やサービスが消滅したり、又、消滅せずとも当該業務や関連業務がうまく遂行されないケース(結果的にサービスレベルが低下)。二つ目は、それとなく無難に引き継がれ、クオリティ維持ができているケース。そして三つ目が、引き継ぎを境に、新たな成長を遂げるケースである。当然三つ目のケースが経営の観点としては是非とも願いたいところであろう。しかし、引き継ぎ先側がさらなる成長を成し遂げる主役として活躍することは容易ではない。

だが、新たな担当者は、大なり小なり創出者にはない能力や視点をもっているものだ。“面倒なものを引き受けてしまった感”を抱かれる場合を除き、真正面から当該業務を受け止める担当者に対しては、この点を尊重したい。そのような可能性を秘めた組織や個々の人材は、まず最初に業務の個別要素を客観視する。従来漏れていた視点を明確化し、何らかのしがらみ等で実現できていなかった事項を、純粋な気持ちで“何故”と問う。時には戦略的な方向性の調整にまで至るかもしれない。新たな遺伝子の関与によって、業務改善や新たな価値創造の期待感もあろう・・・。

と、そんなに上手くいく可能性は決して高くない。しかし、引き継ぎのタイミングはその業務の改善性、あるいはその業務によって維持される商品・サービスのクオリティを向上させる絶好の機会ではなかろうか。基本的に商品やサービスは最初のコンセプトが肝要であり、一旦完成した後に手を施せる事項は限定的かもしれない。だが時と共に価値も変化し、内容も陳腐化し、競合状況も変わる。引き継ぎのタイミングは諸々のことを再考・熟考するよいチャンスであり、担当者の力量や姿勢によっては、良い変化をもたらす期待感を抱かせる。「引き継ぎ力」は大きくクローズアップされるビジネス要素ではないが、競争優位性を確立するためのプラスアルファ要素として、少しばかり意識しておきたい企業能力であると思われる。

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