深化する対外不均衡

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2006年06月08日

  • 尾野 功一
重 層的な不均衡

現在の対外不均衡問題の主役は、経常赤字対名目GDP比が最大水準にある米国と、赤字を生む最大相手国となる中国である。

だが、世界的な視点でみると話はそれにとどまらない。世界の対外不均衡(経常収支不均衡)の度合いを指数化すると、日米貿易摩擦が激化したプラザ合意前後 の1980年代半ばよりも、現在の方が明らかに高い水準の不均衡が発生している。この結果は、米国や中国の動向に強く影響を受けてはいるが、米国、中国及 び日本を除いた指数を求めても、やはり1980年以降では最も強い不均衡が生じている。なかでも、先進地域でその傾向が強く観測され、新興地域についても 1980年代初頭を除くと現在は相対的に高水準である。1980年代半ばは、日米を除くと不均衡の程度がさほど強くはなかったことと比べると対照的な姿で ある。これらの推移が示唆するのは、現在の対外不均衡は主役の米中間に限定されることなく、不均衡が世界中に拡散する構図を有していることである。

現在の先進国における経常収支は、黒字国が、日本、カナダ、スカンジナビア諸国、ユーロ圏及びスイスの大陸西欧などで、赤字国は、米国、英国、オセアニア 地域、アイスランドである。後者に属する国のうち、英国以外の国は米国と同様に高水準の経常赤字対名目GDP比を記録しており、これらの国にも対外不均衡 の懸念があてはまることになる。

新興地域の不均衡

やはり細心の注意が必要となるのが、新興地域の不均衡である。現在の新興地域の経常収支は、黒字国・地域の代表が、東・東南アジア、ロシア、サウジアラビ アやアラブ首長国連邦などの一部産油国、逆に赤字国・地域の代表格は中東欧である。現在の中東欧諸国は、バルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア) などを筆頭に、通貨危機(1997-1998年)発生前のアジア地域と比べて、同等ないしはそれ以上の経常赤字対名目GDP比を記録する国が少なくない。

グローバル化の時代では、経常赤字のみをとりあげて問題視するのは適切ではない。だが、実質対ドル為替レートが、過去数年ほどの中東欧地域で全般的に顕著 に上昇している事実と重ね合わせると、事情は多少異なってくる。西欧との経済的な結びつきが強い中東欧地域は、ユーロに対する為替レートの安定を意識する 傾向が他地域よりも強い。そして、ユーロがドルに対して上昇傾向を強めた2002年以降、中東欧通貨も連動して対ドル実質レートが騰勢を強めている。これ は、1995年春以降に米ドルが実効レートベースで上昇トレンドに転じたのに伴い、米ドルとの連動を意識したアジア通貨も円などに対して上昇した通貨危機 前の構図に多少似ている。

以上に示したように、現在の対外不均衡は、米国の巨額の経常赤字というプラザ合意時にも存在した特徴を抱えつつ、新興地域が生み出しうる波乱の芽も内包し ている。米中間の貿易不均衡と人民元レートは、確かに話題としては華やかである。だが、より強く警戒すべきことは、新興地域の不安要素が加わることで起こ りうる複雑で急激な変動(波乱)である。もし、この懸念が現実となる場合、米国(ドル)が逃避先としての余力を大幅に低下させている事実が重くのしかかる ものとなろう。

(出所)IMF 'World Economic Outlook Database'のデータを用いて大和総研作成 

(注)対象各国・地域毎に「(経常収支対名目GDP比絶対値)×(米ドル換算名目GDPの対象国・地域合計に占めるシェア/1980年から2005年まで の経常収支対名目GDP比の標準偏差)」を求め、その総和を対外不均衡指数とした。主要原油輸出国は、サウジアラビア、ロシア、イラン、ナイジェリア、メ キシコ、ベネズエラ、アラブ首長国連邦。

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