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政府・与党による被用者年金一元化の基本方針

2006年05月31日

柏崎 重人

去る4月、政府・与党協議の末に民間サラリーマンが加入する「厚生年金」と公務員等が加入する「共済年金」との一元化(いわゆる「被用者年金一元化」)に関する基本方針が閣議決定された。

同じ被用者を対象とする公的年金制度でありながら、共済年金はかつての恩給制度をベースに構築されたために、厚生年金とは分立した制度としての流れも持つ。給付内容でも共済年金は恩給制度に由来する特権的な部分を持ち、過去からその格差解消が段階的に図られてきた。しかし、現在でも依然として厚生年金・共済年金間の格差は残っており、一連の公的年金問題をめぐる国民的議論の中でその解消が政治的な課題となっていた。特権的な内容とは、概ね「実質的に給付水準が高い(相対的に保険料率が低い、職域部分の存在等)」、「大きな国庫・公的負担に支えられている」を指す。

今回了承されたの基本方針では、a厚生年金・共済年金の保険料統一、b共済年金積立資産の仕分け、c追加費用の減額、d職域部分の廃止、e積立金の管理・運用などが打ち出された。このうちa・c・dが、実質的な公的年金給付水準の見直し(減額)に当たり、併せて国庫・公的負担の減額を目指すものとして取りまとめられている。格差解消や負担軽減にとって具体的にどの程度効果があるか測りかねる点もあるが、「被用者年金一元化」としては概ね合理的な方向性を打ち出したと評価できるだろう。

一方、金融・資本市場に与える影響から指摘が必要なのは、むしろ次の2点であろう。第一は「d職域部分の廃止」に伴い、これまでの3階部分を2010年以降にどうするか。既に政府では、人事院に対して、「職域部分」に代わる新制度の検討資料とするため、民間の企業年金・退職金の調査を要請している。海外の制度も参考に加えて本年秋には調査結果がまとめられる予定だが、新上乗せ年金の選択肢として確定拠出年金(日本版401K)の導入も有力な候補に挙げられよう。現時点では権限に基づく入手情報によるインサイダー投資懸念などから公務員による401Kスキームを否定的に捉える向きがあるようだが、我が国の「貯蓄から投資へ」という流れをさらに確固としたものとするためにも、是非とも公務員の確定拠出年金への加入を実現してもらいたいものだ。

ここで参考としたいのは、米国連邦職員が加入している「節約貯蓄制度(Thrift SavingPlan)」である。同制度は米国公的年金(社会保障年金)改革の一環で1988年に導入されたもので、現在の積立金総額は約19兆円(≒1,700億ドル)と米国で最大の確定拠出年金制度である。加入者である各連邦政府職員は、合計6ファンド(a株式ファンド(3ファンド:大型株、小型株、海外株)、b事業債ファンド、c連邦国債ファンド、d上記組合せのライフ・サイクルオプション)への投資が可能となっている。これらファンドは、基本的にインデックスファンドであり、インサイダー投資懸念等を生じさせないような配慮がなされている。公務員という立場による投資の問題を生じさせずとも確定拠出年金が活用できる好例ということができるだろう。

第二は、現在合計で50兆円にのぼる共済年金の積立金運用の行方にかかわる問題だ(「b共済年金積立資産の仕分け」、「e積立金の管理・運用」が対応)。基本方針では、対支出倍率が厚生年金と同程度の水準の部分を1・2階部分の積立資産として仕分け、残りの資産を廃止前期間の職域給付、新3階部分の年金の順番で充当することとされた。また、改正後の資産運用は、現行の厚生年金資産ポートフォリオと同一化するのを基本する旨が謳われている。

制度改正の実施時点や算定式によって実際にどうなるかは分からないが、ラフな計算からは15兆円以上が3階部分として切り分けられる可能性が指摘できる。この切り分け部分で新たに年金資産運用を実施するのであれば、新ポートフォリオとして株式や外国証券などへの積極的な投資の余地が大きく生まれる可能性がある。また、新たな3階制度に確定拠出年金を導入する場合、同制度発足時に巨額な資産規模を有することも想定でき、日本版401Kの我が国への普及・浸透に大きな弾みとなるかもしれない。一方で、既存のポートフォリオを厚生年金並に組替えるために保有証券の売却・現金化等の事態も考えられ、この場合株式・債券等の市場に与える負の影響も小さくないだろう。さらに現状、共済年金では財政協力運用や共済組合員向けの融資(住宅ローン等)での運用が行われているが、これら債券引受け市場や組合員への影響を最小限にする配慮も不可欠だろう。

残念ながら以上の積立金運用に係る詳細は、今般の基本方針決定では詰め切れなかった。共済年金の積立金運用の行方は、市場にとって小さからぬポジティブ、ネガティブな諸事態が想定できるだけに、今後の詳細決定動向にも要注目である。

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