ライブドアショックを教訓に存在感高まる理念駆動型起業家

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2006年02月24日

  • 鈴江 栄二
ライブドアショックからこの「展望」の原稿執筆時点で2週間が経過した。同社株主価値の急減や社会的混乱は大きかったが、ようやく平静を取り戻しつつある。筆者もこの間、一部マスコミから感想を求められた。2年ほど前から早稲田大学や京都大学において起業家養成講座の授業に協力しているためだ。「学生起業家の活動に水を差すことになりはしないのか?」

早稲田大学の受講生たちにもマスコミから質問がいくつか飛んできたという。しかし、代表的な学生起業家は、事件に驚きは隠さないが、予想外に冷静である。彼らの返答は「お金がすべてである」という堀江貴文ライブドア前社長と自分とは目的自体が異なる、社会に役立ちたいという思いや起業を通じて自分を表現することで良い意味で社会に影響を与えたい、という健全な内容。マスコミの質問には「ノー」といえそうだ。

この事件をもとに起業家の資質について改めて整理する機会を得ることができたのは救いであり進歩であるかもしれない。家宅捜索される前のライブドア前社長は利益・お金への執着に偏重する「利益偏重型」と呼べる。短期的利益のみを追求し、そのためにはグレーな手段もいとわず、ステークホルダーへの配慮を欠いた経営姿勢が特徴である。実は家宅捜索後にはグレーな手段のみならず一線を越えて違法な行為も行っていたと報道されており、「利益偏重型」から「アウトロー」に大きく逸脱していたことになる。

相対するタイプは理念・社会的使命感の強い「理念駆動型」といえよう。持続的な発展志向、ステークホルダーに配慮した株主価値増大意識、利益を超えた理念・ビジョンの確立、などを特徴とする。前述の学生起業家は「理念駆動型」に当てはまる。上記起業家養成講座で取り上げた成功した起業家の事例研究はすべてが「理念駆動型」である。京セラの稲盛和夫氏、ソニーの井深大氏と盛田昭夫氏、松下電器産業の松下幸之助氏、ホンダの本田宗一郎氏らを代表に、近年の事例ではソフトバンクの孫正義氏、楽天の三木谷浩史氏、サイバーエージェントの藤田晋氏、ディー・エヌ・エーの南場智子氏、マクロミルの杉本哲哉氏らIT関連起業家まで枚挙にいとまがない。その存在感はライブドアショックを教訓にむしろ高まることになるだろう。

筆者らは上記起業家養成講座を始めるに際して以下のような仮説を立てた。「『利益偏重型』でも短期的に急成長することが可能であるが、時間の経過とともにステークホルダーからの信頼や協力が急速に薄らぎ、事業は限界に達する」。持続的な成長を実現する「理念駆動型」こそ社会から期待される起業家像であると位置付ける。今回の事件から短絡的に学生起業家の挑戦を否定することなく、むしろ、健全な起業家社会を実現するために「理念駆動型」の起業家養成がますます重要になってきたといえそうだ。

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