病院発ベンチャーを創出せよ

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2005年12月22日

  • 浅野 信久
大学発ベンチャーは一般に広く認識されるようになった。公共セクターの組織活性化や経済貢献においては、公共セクター発のベンチャーが有効に機能することが明らかになってきた。そこで、大学と並ぶ公共セクターの雄である医療機関からのベンチャー創生にふと目を向けてみた。まずインターネットで「病院発ベンチャー」というキーワードから関連情報の検索を試みたが、大学発ベンチャーに関連した医療・バイオ系ベンチャーの情報以外にはほとんど情報は見当たらなかった。

ところが、米国では病院発ベンチャーは実在する。それどころか、病院が知的財産形成に積極的に取組み、活発にベンチャー企業を輩出しているのである。代表的な事例は、国際的に評価の高い総合メディカルセンターであるクリーブランド・クリニック(http://www.clevelandclinic.org) だ。定評ある病院ランキングで常にトップ10入りを果たし、中でもハートセンターは、2005年を含め11年間連続して、U.S.News&WorldReportのBestHospitalランキングでナンバーワンを獲得している。同クリニックのメインキャンパスのあるオハイオ州クリーブランド市周辺には、ベンチャーに限らずヘルスケア産業関連の企業が多数集積し、さながら医療産業都市を形成している。

同クリニックでベンチャー輩出機能を担っているのが、The Cleveland Clinic Foundation Innovations(CCFI) (http://www.clevelandclinic.org/innovations)である。産業界で経験を積んだCCFIの専門チームが投資家、起業家、発明者と協力・連携し、ベンチャー起業化を支援する。すでに、CCFIの手がけたスピンアウトベンチャーは10社を超えている。

米国は、医療産業を国際競争力のあるグローバル・インダストリーに育成することに成功した。病院発ベンチャーのメカニズムが少なからず貢献していることだろう。

日本では病院発ベンチャーの事例が乏しい背景を私なりに考えてみた。(1)まず病院が企業活動とは一線を画す非営利法人であること、(2)病院自らが病院由来の技術に基づくベンチャーを起業することが医療法人制度上容易ではないこと、(3)病院の多くではミッションの中心は診療サービスであり、研究開発の優先順位が必ずしも高くないこと、(4)日本における特許の審査基準では「医療行為」は発明に該当しないとされ、特許を含む知的財産権の創出に病院自体があまり馴染みを持っていないことなどが掲げられるのではないだろうか。

だが、わが国の医療現場においても、このところ、画像診断装置、心臓カテーテル、腹腔鏡手術器具をはじめ、外国製品の躍進が目覚ましい。昨今、医薬・医療機器産業界では空洞化が危惧さている。業界・行政では、医療現場で培われるナレッジをもっと医療関連産業振興に活かす革新的チャネルを求めている。日本は、30兆円を超える資金を医療費に費やしている。また世界で最高水準の長寿化の背景にある日本の医療技術にも国際的関心は高い。日常の診療から培われ創発される知財を活かさない手はないだろう。わが国においても、関連法規の大胆な規制緩和により病院発ベンチャー創出の環境整備に着手し、病院発ベンチャー創出に本気に取組むべき時期が来ているのではないだろうか。

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