サムスンはトヨタになれるか?
2005年10月27日
韓国を代表するエレクトロニクス企業であるサムスン電子は、2004年度の純利益が10.7兆ウォン(約100億米ドル)に達した。これはトヨタ自動車の2004年度純利益額(1.17兆円)とほぼ並ぶ金額である。純利益が100億米ドルを超える企業は、世界でもトヨタ自動車をはじめ9社しかなく、サムスン電子も名実ともに世界のトップ企業入りを果たしたと言えよう。サムスン電子の大躍進の要因としては、サムスングループ李会長を頂点としたトップダウンによる迅速な意思決定メカニズム、熾烈な社内の競争原理およびそれらを可能とする卓越したコーポレート・ガバナンスなどが指摘されている。
サムスン電子は何かとトヨタと比較されることが多い。両社ともに日韓を代表する製造業企業であること、本業が堅調であり利益規模が同程度であること、潤沢なキャッシュ資産を抱えていること、などの共通点があるためであろう。しかし、サムスン電子とトヨタには大きな違いがある。それは、トヨタが系列企業との共存共栄を意識的に目指しているのに対し、サムスン電子は協力会社を一段下に見る「主-従関係」を望んでいるようだ。そして、この傾向は現代自動車など他の韓国の大企業にも概して当てはまるようである。
上下関係が重視される韓国ならではの企業内外における明確な主従関係は、一面では、スピーディな意思決定と実行力を生み出す原動力となっている。「上」や「主人」が言ったことは絶対なので、「下」の者は必ず即座にそれに従って実行しなければならない。しかし、この意思決定メカニズムでは、「下」の者の思考能力が育たないうえ、「下」の者の間に不満がたまるリスクが高い。韓国で裾野産業、部品産業が育たない理由のひとつがここにあるのだろう。また、大企業から強烈な値下げ要求をされる下請け企業の不満もくすぶったままである。
先々週に発表された韓国サムスン電子の7-9月期純利益は1.88兆ウォン(約2,000億円)を記録。前年同期比では約30%減益となったものの、前期比では+11%増益となり、半導体や液晶パネルなどの価格下落に苦しんだ05年前半の不調から抜け出したことを印象付けた。05年の設備投資計画額は従来の10.27兆ウォン(約1.1兆円)を変えておらず、日本のエレキ企業各社が羨むばかりの大規模投資を継続する姿勢だ。短期的には死角の見当たらないサムスン電子であるが、下請け企業や取引先との共存体制作りを怠ると、中期的にはその足許を掬われかねないと考える。
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