より注目される米国金融政策

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2005年10月21日

  • 由井濱 宏一

最近のアジア株はそれまでの上昇基調から一転して下落し、足元では一進一退の展開となっている。この背景には10月以降、米国の地区連銀総裁が相次いでインフレ懸念を表明するようになるなど、インフレに対する警戒が従来よりも強くなってきており、Fedによる利上げ継続への確度が高まっていることがある。米国金融政策の影響を受けやすい香港のハンセン指数も、不動産セクターを中心に下落、一時は約3カ月ぶりに14,500pt 割れとなった。アジア市場の株価(MSCI Asia Pacific ex Japanベース)と金価格の推移をみると、10月に入ってから金価格が上昇を辿る一方で株価は反落となっており、パフォーマンスの乖離が目立ってきている。これまでの流動性の拡大が、株式市場、商品市場にかかわらず相場を押し上げてきたが、インフレ懸念が高まるにつれて、米国市場との金利差拡大期待によるアジア通貨安懸念で株式市場から資金が流出し、インフレヘッジのための金投資へとシフトしているようだ。

今後のアジア市場の先行きを見る上で決定的に重要なのは米国の金融政策である。米国の物価統計やFOMCでの声明文への注目度はこれまで以上に高まるだろう。米国では04年6月以降、05年9月まで11回連続で利上げが行われ、FFレートは現在3.75%。05年は年末までにFOMCは2回(11月1日、12月13日)残されているが、原油価格の現水準からの急騰といった事態にでもならない限り、年内のいずれかの時点で利上げ打ち止め期待が醸成されてくるとみている。その理由として、(1)米国景気に中立的な短期金利の水準が4%程度とみられ、この水準を越えて利上げを継続するためには、景況感が相当強くなければ説得性を欠く。ハリケーンの影響に不透明感が残っている中で利上げ継続を急ぐ必要がない、(2)直近のFOMCの声明文では長期的なインフレは抑制されているとの文言が入っており、金利を中立水準に戻した段階で様子見となる可能性が高い、などが挙げられよう。現在の市場の反応は、相当長期間の利上げ継続を過剰懸念しているとみられる。

もともとグローバルな経済ファンダメンタルズ自体が軟化しているわけではない。最近発表になった8月のOECDによるG7景気先行指数の伸び率(6カ月変化率の年率換算)は0.66%と7月の伸び率から更に上昇、世界景気が上向いていることが窺がえる。景気に減速感も過熱感も見えない中で、上記に示したような利上げ打ち止め期待が醸成されてくれば、94年2月~95年2月の利上げ最終局面でみられたように株価上昇に転じるといった展開が期待される。その時点で、上昇力が最も高い市場としては香港市場となるだろう。香港ドルの米ドルとのペッグ制で米国の金融政策との連動性が最も高いことから、米国の短期金利上昇は香港の金利上昇にダイレクトに結びついていた。この結果、金利敏感セクターの不動産や銀行の調整が進んでいただけに反発力は大きいだろう。
 

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