家庭の油学

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2005年10月20日

  • 渡辺 浩志

9月のガソリン小売価格は1リットル131円(レギュラー、税込み、全国平均)。原油高騰を受け、目に見えて上昇している。ガソリン小売価格の内訳は半分が税金、3割が原油価格、2割がマージンである(※1)。従ってガソリン小売価格に反映されるのは原油価格上昇率の3割程度に過ぎない(※2)。それでも今般の原油高騰は凄まじく、ガソリン小売店は過当な価格競争下にあっても、さすがに値上げを本格化せざるを得なくなった。

しかし、個人の生活レベルでガソリン価格以外に原油高騰を肌で感じるところはそれほど多くない。海外旅行のパック料金に航空燃料費の上乗せがあったりもするが、ほとんどは、無くてもことが足るぜいたく消費の分野であって、生活必需品にまで価格転嫁が及んでいるような事例は少ない。原油高騰のあおりを受けそうな電力料金では、むしろ燃料費調整分を飲み込む値下げが行われている。この背景には石油から原子力・天然ガスへといったエネルギー源の乗り換えや企業努力がある(※3)

過去二度にわたるオイルショックの経験と教訓は、主に企業努力を通じて、原油高騰が生活物価へ影響を与える経路を閉ざして来た。しかしこのことが、枯渇燃料であり、かつ環境負荷の高い原油を効率的に利用しようという消費者の意識を眠らせてはいないか。とはいえ、そもそも石油製品のうち家庭内の使用は全体の1割強に過ぎないため、家計が日々の生活の中で燃料を節約しようとも、それが一国全体の原油の効率的利用を促すにはあまりにも非力である。こうしてみると意識や影響力が低下してしまった家計に起こせるムーブメントはなく、効率化の取り組みは自発的な企業努力に委ねるしかないということになりはしないか?

答えは×である。確かにこれまでの日本の省エネ効率の大幅な向上は、企業によってもたらされてきたことは事実だ。しかし、企業が技術開発を進め、省エネ効率を向上させるような製品を生み出す原動力となってきたのは、一つは国際競争、そして忘れてはならないのは消費者の選択である。原油が高騰する中で、消費者が危機意識を持ち、ハイブリッド車のような省エネ製品やLOHAS(※4)のような環境に配慮したライフスタイルを志向することこそが、企業を動かし、一層の技術開発を後押しするのである。そしてこれが日本の国際的な比較優位性を高めたり、原油高騰に強い経済をつくるばかりか、環境負荷の軽減にもつながる。所得水準の向上と共に原油使用量が急増しているアジア諸国に囲まれる中にあって、省エネ技術の開発は日本の使命ともいえる。これに対し、家庭レベルできることの力は小さくはなく、原油高騰の下で一人一人が大きな視点で意識を高く持つべき時が来ているのである。

(※1)原油関税(約0.2円/L)、石油税(約2.0円/L)、ガソリン税(53.8円/L)に加え5%の消費税がかかる。1リットル131円のガソリンでは税金は約62.3円(47.6%)。通関ベースの原油価格は1リットル約40円(30.5%)、残り約30円(21.9%)が元売及び小売業者のマージン
(※2)9月のガソリン価格は前年比約10%上昇、輸入原油価格は同約50%上昇。
(※3)オイルショック前は発電量の7割を石油による火力発電に依存していたが、足元では原子力、天然ガスなどによる発電に取って代わり、石油による発電は1割にまで減少している。
(※4)Lifestyles of Health and Sustainability 健康と環境に優しいスローライフ(筆者意訳)

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