ハリケーンが残していったオーバーキル懸念

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2005年10月18日

  • 成瀬 順也

「カトリーナ」「リタ」と続いた超大型ハリケーンの上陸によって、米国経済が不透明になっている。ただし、悪化した訳ではなく、あくまでハリケーンの影響が大き過ぎて統計の信頼性がなくなったという意味で、文字通りの「不透明」だろう。

例えば、消費者信頼感指数。この消費者に景況感を訊くアンケート調査は、ハリケーン後に急落し、景気悪化懸念が高まった。ニューオーリンズが水没するような映像を見せつけられれば、マインドが萎縮するのは当然。しかし、必ずしも実際の消費行動に影響を及ぼすとは限らない。実際、9月のチェーン店売上高は好調を維持している。また、例えば、雇用統計。被災地では、調査対象のサンプルとなった事業所や家庭に連絡がつかないケースが頻発。これらを全て分母から外しては失業者が少な過ぎるし、全員失業とするのも行き過ぎだろう。結局、数字を論評することさえ無意味な統計となってしまった。

問題は、マクロ統計が役に立たないと、霧の中で運転を強いられるドライバーのようなFed(金融当局)の金融政策。霧の中では、アクセルを踏むことはもちろん、アクセルから足を外すだけの様子見でさえ心配である。Fedにとっては、「景気過熱&インフレ」より「景気減速&インフレ抑制」の方がマシな訳で、不透明ならば、とりあえずブレーキを踏むしかない。

しかし、昨年のクリスマス商戦を思い出して欲しい。当初、EDLP(エブリデー・ロー・プライス)を標榜するウォルマートはセールを行わず、他社に顧客を奪われて散々なスタートを切った。慌ててセールに追随した同社も、恩恵を受けたライバル企業も、消費者の価格敏感度を思い知らされた筈である。原材料価格や燃料価格の上昇によるコスト増を、簡単に小売価格に転嫁できる状況には無い。結局、川上の石油企業から、素材メーカー、最終製品メーカー、小売企業へと川下に流れてくる過程で、生産性の向上によって吸収されるか、どこかの段階の企業が利益を削られるかのどちらかになろう。

結局、ハリケーンが残していったのは、景気減速懸念ではなく、ましてや、インフレ懸念でもない。せっかく高成長&低インフレを享受しつつある米国経済を、Fedの行き過ぎたインフレ懸念によって引き締め過ぎてしまう「オーバーキル懸念」ではなかろうか。

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