起業家の成功事例輩出が社会にもたらす恩恵

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2005年10月13日

  • 鈴江 栄二

IPO市場の好調も追い風となり、新興企業群の起業成功事例が急速に増加しつつある。IPOは企業の成長過程においてはひとつの通過点に過ぎないが、起業家予備群にとって大きな目標となるのは間違いない。起業家のIPO成功は、新規産業創出、株式市場の活性化、雇用の増加など直接的な効果をもたらすが、それだけにとどまらない。起業成功事例の増加は起業予備群を顕在化させるのみならず、後続起業家の良い手本となり、成功の確率を向上させる効果がある。これまで日本の社会は起業家を十分評価しない社会であるといわれてきたが、最近では楽天など新興企業の活躍が良い意味で大きな注目を集めるようになってきた。

先駆的成功者の示す実績は、実際、後続起業家に豊富なヒントを与えてくれる。古くはソニー、京セラ、日本電産、最近ではソフトバンク、ワタミ、インテリジェンス、楽天、サイバーエージェント、DeNA、マクロミルの各起業家をはじめ、列挙しきれないほどの事例がすでに存在する。上記起業家の各種メディアでの発言や著作の中から容易にそのヒントを読み取ることができる。

たとえば起業準備をする際に最初に重要となる起業動機を考えてみよう。起業動機は大きく分けて、(1)ビジネスアイデアも無い時点から資産を築くためなどの願望を元に社長になりたいと若い年代から夢に抱くケース、(2)自分の能力を生かして強くやりたいと思う事業を実現するために起業を決意するケース、の二通りが挙げられる。ここではそのどちらが良いかということはあまり問題ではない。重要なことは、漫然と起業動機を意識することよりも、「何々だから自分は起業して成功したいんだ」と絶えず強く思い続け、実践していくことにある。というのも、絶えず思いつづけることが夢の実現に向けて情熱を大きく膨らませることにつながるためである。情熱を大きくすることが、起業という一大決心を促す原動力となり、厳しい市場競争など幾多の試練を乗り越えて行けるエネルギーを増進し、ビジネスモデルをよりいっそう強化し、事業戦略を強力に実行できる能力を増大することにつながる。起業家に最も必要な要素は、「情熱」とよく言われるが、やはりその通りだろう。

先述のソニーや京セラを初め戦後の早い時機に多くの優れた起業家が輩出された。しかし20世紀終盤にかけて起業成功事例は減少し、世界競争力年鑑(IMD)の調査を見ても、例年のように日本の競争力低下の要因のひとつに起業家精神の低迷が指摘されてきた。その後、ネットビジネスの本格拡大期を迎えた2000年代に入り、起業家の輩出が経済を活性化する理想的な時代を迎えたといえる。

近い将来において、先駆的成功者は、起業家予備軍からは自分もあのようになりたいと今以上に尊敬されるのみならず、社会からは人々の夢を増進するとともに経済活性化に大きく貢献したと、今以上に賞賛されることになるものと期待される。

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