ヘッジファンド投資の課題と展望

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2005年09月15日

  • 俊野 雅司

最近、年金基金や生保等の機関投資家による運用対象として、ヘッジファンドに対する注目度が高まっている。伝統的な投資対象であった国内外の株式や債券だけでは十分な投資成果を達成することが困難という投資家の判断が背景にある。また、国内でも、ヘッジファンド投資を手がける機関投資家のすそ野が広がっていることも、投資家にとっては安心感に結び付いているものと考えられる。

機関投資家によるヘッジファンド投資の特徴は、多様なタイプのファンドへの分散投資を狙うファンド・オブ・ファンズ(FOF)型の商品に対する投資比率が高い点である。MAR/Hedge(※1)によると、FOFのシェアは、ファンド数でも、資産額でも、30%程度にまで拡大していることが確認できる。

ヘッジファンド投資の最大のメリットは、市場環境が悪化しているときでも、絶対収益(プラスのリターン)が期待できる点である。個別ファンドの中では、市場中立(マーケット・ニュートラル)型と呼ばれる裁定取引戦略を主な投資方針とするファンドへの人気が高くなっている。また、自国の株式市場のリターンが大幅なマイナスになっているときに機関投資家によるヘッジファンド投資が活発になっている点にも、絶対収益の追求というヘッジファンドの特徴に対する投資家の期待が高いことが表れている

現時点におけるヘッジファンド投資に関する最大の懸念材料は、超過需要の問題である。今後も年金基金等の機関投資家によるヘッジファンドへの資金流入が続くという観測が示される中で、優良なファンドが十分に提供できるのかについて疑問視する声が少なくない。特に、市場中立型ファンドでは、割高な証券を売って、割安な証券を買うことによって絶対収益を達成しようと試みるが、あまりにも多くの資金がこの種のファンドに投入されると、戦略そのものの有効性が薄れるのではないかと懸念されている。さらにFOFに関しては、個別ファンドの組み入れ状況の開示が不十分なケースも多く、運用資金量の増加に伴って、投資家の予想していなかったような高リスクのファンドへの投資が増加するというリスク要因も高まっている。

一方、空売りに制約のないヘッジファンド投資が活発化されることによって、従来は割高なまま放置される傾向のあった証券の価格が適正化されるという効果も期待できる。また、それに伴って、従来、買い推奨に偏る傾向の強かったアナリスト・レポートに関しても、売り情報に対するニーズが高まってくるのではないかと予想される。

総じて、ヘッジファンドの存在意義は今後とも維持されるものと思われるが、安易な横並び的な投資は避け、リスク管理(※2)を十分に行った上で、節度のある投資を行うことが要請される。

(※1)ヘッジファンド専門のデータベース提供会社。
(※2)ヘッジファンド投資においては、キーパーソンの退職や事故による影響などの人的リスクを始めとする定性的リスクのウエイトが無視できないほど大きい。

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