韓国政府が強力な不動産投機抑制策を発表

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2005年09月06日

  • 黒坂 慶樹

8月31日、韓国政府は強力な不動産対策を発表した。日本の80年代後半のバブルのような全国的な不動産価格の上昇は見られないが、2005年に入ってからソウル市内や周辺都市の一部において住宅不動産の価格が約2~4割上昇している。今回の不動産対策の主な目的は、(1)資金の流入で上昇している不動産価格に歯止めをかけること、(2)不動産価格上昇によって阻害されてきた低所得者がより容易に住宅取得できるようにすることである。不動産価格抑制の手段としては、不動産保有税、譲渡税など幅広い不動産税制の改正(引き上げ)が盛り込まれた。2006年から2008年にかけて税率の引き上げや課税標準の引き上げが施行され、投機目的での高所得層の不動産所有者の実質的な税負担は大幅に増加する。一方、低所得者への住宅供給に関しては、再開発や公団物件の整備で、比較的間取りの狭い物件を安価で供給することや、低所得者向けの不動産購入の際の金利優遇など金融面での支援、などが盛り込まれている。

強力な価格抑制政策により政府が狙っている不動産価格の抑制は実現できるであろう。不動産価格は、税負担の増加による投機需要の萎縮、安価な低所得者向け住宅の供給増加により、需給のバランスは崩れ、今後2~3年は価格の下落を招くと予想する。実際、2003年10月の不動産規制策(今回と似たいような不動産投機抑制策。税率引き上げなど大部分の施策は2005年から施行された)により、2004年の不動産市場は軟調となった。今回の対策は、2住宅以上保有者を譲渡益重課税対象とするなど、前回よりも更に徹底した投機抑制内容となっており、不動産セクターの冷却期間は長めになりそうだ。

筆者は、一部で期待されている不動産市場から株式市場への資金還流観測には疑問を持っている。不動産資産価格の下落時に富裕層は積極的に代替資産へ投資を振り向けることになるだろうか。韓国では長期金利(国債3年物)が4%程度まで下落するなど超低金利時代に突入しているが、不動産価格下落により投資センチメントや景気センチメントが悪化すれば、株式市場に不動産市場からの個人マネーが流れることは考えにくい。不動産景気冷却による建設景気、消費などへの悪影響も心配である。

今回の不動産政策は、日本のような不動産バブルになる前に不動産価格を抑えた政策という評価を得るだろうが、反面、遅れがちな韓国経済の回復に一段のブレーキをかけるリスク要因にもなりかねない。

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