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情報システムの「性質」

2005年09月05日

栗田 学

我々の経済活動は、高度な信頼関係の上に成り立っている。ラーメン一杯600円の値札がかかっていながら、食べ終わって伝票をみたら700円だったなどということはないのである。なぜか。そんなことをすれば、たちまち淘汰されてしまうことを店主が知っているからである。この暗黙の了解こそ信頼関係の基礎であり、あとは消費者が優劣を決定する。その結果、ラーメン業界は消費者主導でマーケットが形成されている。

一方、消費者主導のマーケットにはなりにくい商品もある。情報システムはその1つであろう。情報システムの特徴をユーザーの立場からいくつか挙げると、
 

必需品である
導入に際しての見積もりと実際にかかるコストが異なる場合がある
長く使い続けたい
同じベンダーをある程度継続的に使わざるを得ない
効果がどのくらい上がるか不透明な面がある

などとなる。特に、「導入に際しての見積もりと実際にかかるコストが異なる場合がある」「同じベンダーをある程度継続的に使わざるを得ない」「効果がどのくらい上がるか不透明な面がある」は問題である。ラーメンに例えて言えば、「食べ終わってみたら値札の金額と違うことがある」「ある程度同じ店に通わなければならない」「お腹一杯になるか/おいしいかどうかはわからない」といったところか。情報システムはユーザーに極めて厳しい性質を持っている。

これら情報システムの「性質」は必ずしも生来のものばかりではない。むしろユーザーとベンダーが長い時間をかけて作り上げてしまったものが多い。その主因は「情報の非対称性」にある。ユーザーは言うまでもなく自社の業務に精通している。その点でベンダーは劣る。一方、ベンダーはIT分野に精通しており、ユーザーはこの点で劣る。このアンマッチが、長らくユーザーとベンダーの信頼関係に影を落としてきた。結果的に、情報システムのマーケットはベンダー主導で形成されているといえよう。良いことではない。

情報システムのマーケットをユーザー主導に転換させるためには、ユーザーがベンダーの技術力を正当に評価する眼力を持つことが必要だ。これがなければ、多くの不安を抱えつつも安価なベンダーを選びがちになる。問題は、ベンダーを客観的に評価する情報が不足していることである。例えば、カーナビにはそれを専門に分析するインターネット上のサイトが存在し、ユーザー主導のマーケット作りに一役買っている。それがメーカーの競争を促進し、産業競争力向上の要因となる。情報システムにも何らかの仕組みがあればよいが、現状はユーザー、ベンダー双方の自助努力に委ねられている。

価格競争はどの業界でも避けて通れない。古くは製造業が安い労働力を求めて東南アジアを開拓した。情報サービス産業もまた、インドから中国へと労働力確保に動いてきた。ただし同産業の発展に必要なものは、安価な情報システムではなく、価値ある情報システムを提供するベンダーが勝つという構造である。そのためにはユーザー主導のマーケット形成への転換が不可欠であり、ベンダーを評価するユーザーの厳しい目が重要な役割を担っている。

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