ガバナンス論議と株式市場「空回り」の構図

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2005年08月23日

  • 松原 英人

買収・防衛に関する俄か議論の盛り上がりを通じて浮き彫りとなったように、コーポレート・ガバナンスの問題に対する日本企業の姿勢は全般的には依然不明確な点が多い。このことが、見掛けの活況とは裏腹に国内株式市場が個人投資家の支持に裏付けられた持続的な成長軌道に乗れないでいる背景であると思われる。投信の売買動向から見て、本稿でも何度か指摘してきたような個人投資家主体の資金循環の形成には未だ至っていない。

投信を通じた資金フローは、ある意味便利なもので、最大の金融資産保有主体にして資金の出し手である家計が、企業活動をどのように見なしているかを知る一種のバロメーターになる。その投信による国内株式売り越し基調に変化が見られない。主要先進国に対して20年遅れで進行中の構造改革にとって最も本質的なテーマが企業に対する規制緩和と小さな政府の実現であるとすれば、その浸透を裏付け、また一層促進していくべき個人投資家の資金フローが一向に現れてこないことは深刻に捉えられるべきであろう。積極的に日本株式を買い増す外国人投資家とは対照的に、当事者である国民の方は企業活動の先行きを楽観していないということになる。

それでも、日本企業の間では、長く続いた「株主不在」の状況から一挙に「M&A時代」に抜け出す過程で、かなりのドタバタが見られた反面、ガバナンスの問題に関し、ある程度旗幟は鮮明となった感がある。相変わらず「株式持合い」をに固執するグループ、取締役の定員削減や任期変更などの役割改正で対応しようとするグループ、あるいはいきなり「ポイズンピル」の採用にまで至ったグループ、その中間的な対応として「授権資本の枠拡大」策を採ったグループもある。そして、当然、実際に企業買収の表舞台に現れた(あるいは引っ張りだされた)「被買収企業」、「買収企業」のグループがある。これらのグループをポートフォリオとして観察してみると、大まかではあるが、それぞれのファンダメンタルズとそれに対する市場の評価という関係が見えてくる。

現状、最大の問題は「株式持合い」に代表される保守派の資本効率が低すぎることである。だが、このグループと市場との株価連動性は高く、時価総額ウェイトも依然圧倒的に大きい。市場の停滞は、このグループに対する市場の評価が低レベルで推移していることと密接に関連している。一方、一足跳びにポイズンピル採用にまで走った企業は全体に成長性が市場平均以下で評価も低いままだ。配当利回りは市場平均を下回る。成長戦略を描ききれていないことからくる焦りがラディカルな防衛策の背景にありそうだ。取締役の定員・任期の変更、授権資本枠拡大など中間的な対応を採ったグループは、成長、分配(配当)とも平均以下で市場の評価も低いままである。一方、M&A時代の当事者となった買収企業は当然、レバレッジその他のリスクを取りながら買収によって成長を志向することでその市場評価を高めている。被買収企業の方は、企業ごとにバラツキはあるが、やはり成長戦略に難がある。だが、買収対象となったことで、分配面は大幅に改善した。配当利回りだけでも長期保有対象と見なせるものもある。

しかし、この買収-被買収関係は専ら東証1部以外で起きている。「株式持合い」グループなど市場の大勢にはまだ影響が及んでいない点が問題である。買収の頻発が好ましい現象であるというつもりは毛頭ないが、原因と結果を取り違えてもなるまい。買収の前に低資本効率と低株価の放置がある。その改善のためには、市場全体として、きれい事をかなぐり捨ててリスクを取る必要があろう。企業側においても、個人投資家にアピールするところまで投資効率を上げ、その先行きを確信させるところまでガバナンス意識を高めていく努力が欠かせないはずである。

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