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国勢調査と統計学

2005年07月14日

小倉 正美

「国勢調査員として働きませんか?」先日、こんなチラシが郵便受けにはいっていた。そう、今年は5年に一度の国勢調査の年なのだ。

「国勢調査」は、国がおこなう最も基本的な統計調査である。別名「人口センサス」ともよばれ、日本国内に住むすべての人(外国人もふくむ)を対象に、国内情勢(人口・世帯・労働の実態、略して”国勢“)を明らかにするためにおこなわれる。調査の項目は、性別、年齢、国籍、職業、世帯、住居に関する17項目。結果は、議員定数や地方交付税の決定、都市計画・防災対策・福祉政策の策定、将来人口の予想など、政策立案の基礎データとして利用される。1920(大正9)年の第一回以来、今年で18回目、10月1日(土)全国一斉に実施される予定だ。

国勢調査を統計学からみたときの最大の特徴は、全国の住民「全員」を調査対象にすること、すなわち「全数調査」であることである。全数調査は、調査方法としてシンプルかつ誤差がないため、最も理想的な調査方法といえる。ただ如何せん、調査件数が増えるにしたがい、人手と手間=コストがかかるのが難点である。国勢調査の場合、約80万人の調査員が導入され、費用は数百億円にのぼる(平成12年度実施時)。このように全国規模の全数調査は、国のような力のある組織でしかおこなうことができない。これに対し、予算の少ない一般の民間企業や研究者が、規模の大きな調査をする場合は、「標本調査」をおこなう。全体を調べる代わりに、その一部分(標本)を抽出して、その結果から全体を推測するのである。一部を扱うだけなので、費用は少なくてすむ。ただ、一部しか調べないその代償として、結果の数値に“誤差”が生じることになる。

このように、統計調査には、「標本数と誤差(費用と精度)のトレードオフ」がともなう。この問題を解決するために発展したのが「統計学」、こと「標本調査論」なる統計学であった。誤差(推定値の不確実さ)を評価するために「確率」が導入され、標本の抽出方法(単純無作為抽出、層別・多段抽出など)、推定量(総数、平均、比率など)とその誤差に関する諸公式が体系化されている。現在、市場調査、世論調査、品質管理、視聴率調査、選挙速報など、標本をあつかう調査すべてのベースとなっている。

ちなみに、統計学のことを英語ではstatisticsという。18世紀中頃ドイツで、国王や政治家への情報提供(欧州諸国の土地・住民に関する)をstatistikと呼んだのきっかけに普及したもので、“国家、状態・情勢”を意味するラテン語statisticumが語源。このように、統計学は、いまでこそ「数学の一分野」といった趣だが、その成り立ち(生い立ち)をたどると、国や社会の情勢=国勢を認識すること、「国勢調査」が根底にあるのである。

参考http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2005/kouhou/index.htm

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