人民元改革はだれのためか

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2005年07月06日

  • 亀岡 裕次

中国は人民元を実質的に米ドルに固定することで、ドル建てが大半を占める貿易取引の交易条件を安定させ、輸出入を順調に拡大させてきた。また、人民元の安定は海外からの直接投資を引き付け、中国経済の発展に寄与してきた。しかし、人民元の安定を維持することが「中国の国益」につながるとは必ずしも言いがたい状況へと変わりつつある。

一つの問題は、中国の貿易黒字が急増し、外国との貿易摩擦を悪化させていることだ。外国からの人民元切り上げ圧力を無視して人民元の安定を続けることは可能だが、対中貿易に保護主義が広まることは、競争力の高い中国にこそ痛手となる。規制撤廃で輸出が急増した繊維製品には中国が自主規制措置をとっているが、そうした個別対応が中国にとって最善とは思えない。先ごろ、中国政府は個人消費を刺激して輸入を伸ばし、貿易黒字を圧縮する方針を明らかにした。需要を「投資・輸出依存型」から「個人消費を含む内外需バランス型」へ変えようという意図である。多少の輸出を犠牲にしても、輸入品・サービスに対する消費需要を刺激する効果のある「人民元の切り上げ」を行う可能性がある。

ただし、対外通商関係だけで中国が人民元を切り上げるとは考えにくい。重要な問題は、資本取引の自由化を進める上で人民元改革が避けては通れない段階に達していることだ。一般に、資本取引を自由化すると内外金利差等に応じて資金が移動するようになるため、為替の安定を保とうとすれば金融政策の自由度が奪われる。裁量的な金融政策を維持しようとすれば、為替の安定を放棄しなくてはならなくなる。現状の中国は、貿易黒字と人民元切り上げを期待した投機資金流入を為替介入で吸収し、為替を安定させている。外貨準備の為替ヘッジや介入資金の不胎化などコストが拡大しており、徐々にではあるが金融政策の自由が侵食されつつある。人民元の安定は中国自身の手足を縛りつつあるのだ。資本を中国の外へ向かわせるためにも、期待通り人民元を切り上げる必要性が増している。

最終的には「人民元切り上げ」のメリットとデメリットを勘案して、為替柔軟化のタイミングを図ることになろうが、その時期は刻一刻と近づいているのではないか。中国経済がハードランディングの危機にあるなら話は別だが、そうしたリスクは小さいだろう。

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