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米証券業界におけるITスタッフ構成の変化と戦略部門への注力

2005年06月10日

新林 浩司

情報技術(IT)の進歩は、証券業務に大きな変革をもたらしている。収益・戦略部門においては競争優位性をもたらし、新たな収益機会を確実に捉えるための源泉として、また非戦略部門においては合理化・高能率化の基盤としてITが活用されてきた。他産業と比較すると米証券業界のITスタッフ比率は高水準であり、同時多発テロ以降の株式市場低迷で規模縮小の局面にあってもIT部門のスタッフ数を堅持する傾向にあった。米国証券業者協会(SIA)によると、米証券業界全体で5万人超がIT関連業務に従事しており、2001年末から2003年末にかけても-2.9%の微減に留まっている。しかしながら、職務別構成を見ると、プログラマの減員数(約6,000人減、-49%)とソフトウェア・エンジニアの増員数(約4,600人増、+57%)が交差するような変化が認められる。
 


この原因の一つとして、海外やシステム・ベンダーへの業務アウトソーシングが指摘されている。確かに、定型業務や非戦略分野のスリム化の一貫として、プログラム開発の外部移転が進むとプログラマ数は減少する。しかし、その一方、より高度なレベルに位置するソフトウェア・エンジニアに置き換わっているのはなぜだろうか。これには、収益部門を強化すべく、顧客との接点であるフロント系ソリューションの改革が進んでいることが影響していると思われる。例えば、個人顧客向け事業では、従来の単品営業スタイルから資産運用アドバイスに傾斜した結果、運用支援ツールの完成度が大きな意味を持つようになった。また、コールセンターでは自動音声認識の性能向上によるサービス品質の改善が重要なテーマとなっている。

さらに、機関投資家向けトレーディング分野においても情報技術を駆使した大きな変化が起きている。例えば、有利な気配値を提示している証券取引所や電子証券取引ネットワーク(ECN)へ自動的に注文を回送するオーダー・ルーティング機能、機関投資家が直接に注文指図できるダイレクト・マーケット・アクセス機能、コンピュータ自らが市場インパクトを考慮しながら注文を小刻みに出すアルゴリズム・トレーディング機能、などは全てITの発達がもたらしたものである。

これらの機能は、リアルタイム処理能力を極限まで追求し、売買執行コストを大幅に削減できるものの、実装にはデータベースやキャッシュメモリの高度な設計管理能力が要求される。また他社との比較優位のためには、洗練された操作性の追及や迅速な開発力も必須となる。このように、戦略部門において最先端のIT技能が不可欠となった現実が、社内IT部門を高度な技術者集団に転換させる契機となっているといえよう。金融機関のIT部門は、大型コンピュータを用いたバッチ処理の運営者から、リアルタイム性を至上命題とする戦略ツールの供給者へと重点業務を変えつつあるのではないか。
 

 

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