長寿化のコスト

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2005年06月08日

  • 田中 裕文

企業年金の制度では、当初想定した前提(基礎率)と異なる事象が発生した場合、掛金を見直す仕組みが採られている。例えば、予定利率・死亡率・脱退率などが、その前提に該当する。

同様の事を、個々人の年金のための貯蓄に置き換えてみると、生涯にわたって毎年、一定額の年金を受け取るには、当初必要とされる貯蓄額が変化することを意味する。例えば1年間寿命が延びることは、1年分の年金額の現価(年金額を予定利率にて現在価値に割り引いたもの)が増えることを意味する。

図は、国勢調査の確定人口及び人口動態統計の確定データをもとに計算された平均寿命と、国立社会保障人口問題研究所が予測した2050年の平均寿命である。(研究機関によっては、2050年における女性の平均寿命は90歳を超えるとする意見もある)

1950-2000年で、平均寿命は男性で19.7歳、女性で23.1歳延びている。同予測によれば、次の50年で平均寿命はそれぞれ、3.2歳、4.6歳延びることになるが、これまでも医療技術の発達等により、平均寿命は当初の予測を上回るペースで延びてきており、大きく上ぶれしても誰も驚かないことであろう。

さて、60歳支払開始の男性の終身年金を前提として、年金の現価計算(予定利率2%、60歳期初)を行うと、1960年に100だったものが、1980年は107.6、2000年には110.8と無視できない増加をもたらした。これがいわば長寿化のコストであると言える。

翻って年金基金の運営について考えてみると、受給待期者・受給者の同コストは、加入期間中に手当てできない(予測困難な)ものであり、制度の成熟化が進み、受給待期者・受給者の割合が高くなると、その負担が大きくなることが懸念される。

社会の一層の成熟化が進む中、同コストの管理と個々人の年金設計の自由度を増すことを目的に、税制の変更等により、脱退後は無税にて他の年金制度(個人年金等)に資産を移すことを許容する等、思い切った施策を考えても良い時期に来ているのではないだろうか。
 

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