本格的なビジュアルコミュニケーション時代は到来するか

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2005年05月13日

  • 本谷 知彦

商品・サービスの供給者と購入者の間では「情報の非対称性」が存在すると言われている。商品・サービスの供給者はそれらを開発・生産・販売する過程においてその具体的な内容の詳細を十分に知り得る立場にある一方、購入者は供給者と同等の情報量を十分に入手できるとは限らない。よって供給者と購入者との間に所有情報の乖離、即ち情報の非対称が生じる。そして情報の非対称性を解消するために必然的に(広義の)コミュニケーションが存在するものと考えられる。
コミュニケーション手段には目的に応じて、広告、販売促進、パブリシティ、人的対応(人的販売)などがある。この中で、直接的に購入者(顧客)に接しながらニーズに沿った応対をし、双方が相手の反応を肌で感じ取ることができ、臨機応変に対応しながら総括的に顧客が抱える情報の非対称性を解消できるのはやはり人的対応ではないだろうか。

但し、商品・サービスの属性が分かれば容易にその内容や特質を事前に推測・把握できる「探索財」よりは、例えば住宅ローン相談のように実際にサービスを利用してみなければその内容について適切な評価下すことが出来ない「経験財」の方が情報の非対称性が強く存在するケースが多く、人的対応は効果的あるいは必須と考えられる。他方、BtoCではなくどちらかというとプッシュ型のセールススタイルに重点を置き、顧客企業とのリレーションシップ維持に注力するBtoBの世界においては整備された営業体制が重要視される傾向にあり、人的対応力が根本的に問われてくるものと推測される。
無論、人的対応にはコストの課題がある。営業体制を構築・維持していくにはコスト対効果の点を十分に鑑みて取り組む必要がある。又、電話や電子メールではなく実際に顔を付き合わせる場合には、両者あるいは両者の一方が相手の所在地まで足を運ばなくてはならない地理的制約も課せられるであろう。

そこで、遠隔でのビジュアルコミュニケーションシステムにより、地理的条件を克服した擬似対面を実現し、かつ当該システムの導入を前提に経営効率の観点から組織体制を集約化/最適化する施策が、人的対応を重視する企業にとって営業戦略上のポイントとなってくるかもしれない。又、効率化面のみならず、

  • これまで対面することが想定されていなかった相手との会話が可能(=あらゆる"コミュニケーションパス"の確立)。
  • 従来電話や電子メールのみで十分だと考えられていたコミュニケーションでも、WEBページや各種電子文書といった画面の共有機能も付加されたビジュアルコミュニケーションシステムであれば、より意思疎通性を高めることができる期待感もあり。

といった、取引活性化を誘発させるポジティブな面での期待感もあるであろう。更には応用編として、一次応対者を経由して背後に専門的な知識やノウハウを持つ二次的な応対者を柔軟に会話に参加させるモデルを構築したとしよう。それはある意味一次応対者をコンシェルジュに見立てた「ネットコンシェルジュ」型サービスモデルと言える。

ただ、このようなビジュアルコミュニケーションシステムにも課題はありそうだ。一点目は、電話や電子メールといった他の遠隔コミュニケーション手段との活用の境目が意外に曖昧な点である。これには詳細なターゲッティングや共有情報のプレミアム性の追求といった対策が必要かもしれない。二点目は、顧客からみて供給者目線での営業効率化追求の側面が若干ちらつくため、場合によっては無機質で"汗をかいていない"対応と解釈され兼ねない可能性がある点だ。これは詳細なシナリオの設定など何がしかの工夫が必要だろう。三点目は、インターフェースの柔軟性や付帯機能の課題である。既存のWEB会議ツールの中には会議での使用を念頭に置いたパッケージが多く、顧客とのコミュニケーションへの適用という点でインターフェースの柔軟なカスタマイズ性は重要である。又、付帯機能としてスケジューリング機能や在席サインなどがあればより実効性を増すシステムになるであろう。そして最後はセキュリティ面である。例えば会話の暗号化等も視野に入れておく必要があるのではないだろうか。

これらの諸課題の解決と共に、今後どれだけビジュアルコミュニケーションシステムが普及していくのか着目したい。

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