中国で相次ぐ液晶プロジェクト

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2005年04月18日

  • 杉下 亮太

中国でTFT液晶産業が立ち上がり始めた。以前からモジュール工程については日本・韓国・台湾メーカーが拠点を設置してきたが、アレイ・セル工程の投資はほとんど行われていなかった。ところが中国政府の育成策(税制優遇など)にも後押しされ、アレイ・セル工程のプロジェクトが相次いでいる。

まず、04年10月にはSVA NECが上海で5G工場(1100mm x 1300mm)の稼動を開始した。現在生産しているのは15インチモニターパネルだが、今後は17インチモニターパネルの生産も開始し、その後はテレビ用パネルの生産にも取り組む意向である。第2工場・第3工場の計画もある。

続いて05年1月にはBOE-OTが北京で5G工場(1100mm x 1300mm)の稼動を開始した。やはり第2工場・第3工場の計画があり、テレビ用パネル生産をターゲットとしている。
さらに水面下で動いているプロジェクトがいくつかある。龍騰光電は江蘇省昆山のプロジェクトで、5G工場を建設する考えと見られている。広東省深センでも天馬微電子が5G工場の建設を計画している模様である。また、日本から中古の1G/2Gラインを購入して中小型パネル生産に取り組む企業が数社あり、将来的には大型パネルへの展開も想定しているとされる。

中国のTFT液晶産業は確かに潜在性があるように見える。中国のテレビ市場規模は3,000万台を超え、かつ地場ブランドが強い。中国の液晶プロジェクトはこの国内テレビメーカーへのパネル供給を狙っているものと見られる。しかしながら、中国のTFT液晶産業が成功できるかどうかは、まだ不透明である。差し当たって鍵を握るのは、技術パートナーの選定と周辺産業の集積だろう。

世代が進むにつれて液晶の製造プロセスは難易度が増しており、特に6Gになると、参入後5-6年の経験を持つ台湾メーカーですら立ち上げは容易ではない。ゼロからのスタートとなる中国企業の場合、技術パートナーが不可欠だが、パートナーの実力次第では歩留まり改善に想定以上の時間を要することもあり得る。また、龍騰光電や天馬微電子はコンサルティング企業の支援を受けて立ち上げを図る方針の模様だが、これは過去にない技術協力の形式である。立ち上げはうまくいったとしても、その後の稼動維持と、次の投資タイミングをうまく行えるかが課題となるかもしれない。

次に、半導体と違って液晶は材料費の構成比が高く、ガラス基板やカラーフィルター・偏光板などの材料費をいかに抑制するかが重要となる。しかし、台湾の経験を見ても、当初は多くを輸入に頼らざるを得ないと予想され、周辺産業の集積は段階的となろう。中国の液晶メーカーが韓国・台湾メーカーと伍するのは決して楽ではないはずである。
いずれにしても、すでに競争過多となっているTFT液晶業界に中国メーカーが新たに参入することで、液晶市場は一段と競争が激化するだろう。中長期的に見て、投資採算性は低下傾向が続くと考えられる。

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