世界のR&D拠点に浮上する中国

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2005年04月11日

  • 篠原 春彦

I世界の工場から世界の消費市場として世界経済をけん引している中国であるが、世界のR&D(研究開発)拠点としても注目を浴びるようになってきた。とはいえ、国際的には、中国のR&D能力は依然として低水準であるかのように見える。R&Dの投入量を他の国と比較する場合、指標としてGDPに対するR&D投資額が用いられるが、米国の2.62%(2003年)、日本の3.12%(02年)に対して、中国は1.31%(03年)と大きな較差がある。人口1万人当たりのR&Dにかかわる研究者数を見ても、日本の128人(02年)、ドイツの121人(02年)に対して、中国は14人(03年)にすぎない。

しかし、中国のR&D規模を単純に国際比較すると誤解を招く。なぜなら、中国は人口が13億人と絶対規模が大きいため、単純な比率比較では見かけ上小さな数値となる。例えば、R&Dの研究者の絶対数は、中国が109.5万人いるのに対して、日本:85.7万人、ドイツ:47.9万人と中国のほうが研究者数は多い。また、R&D投資額で見ても中国が186億ドルと韓国の138億ドルを上回っている。さらにOECDの試算によると、購買力平価(※1)(PPP)基準で見た01年の中国のR&D投資額は598億ドルと為替レート基準の3倍以上の水準となり、実質的には米国(2,823億ドル)、日本(1,038億ドル)に次ぐ世界第3位のR&D拠点に浮上していることが見えてくる。

多国籍企業の中国へのR&D投資が活発に

さらに注目されるのは、マイクロソフトやGEなどの多国籍企業が相次いで中国内にR&Dセンターを設置している点である(※2)。増加の背景には、政策として、多国籍企業が傘型企業(※3)を設立する際にR&Dセンターの設置を奨励してきたことなどが挙げられるが、多国籍企業にとっても中国の低コストで優秀な研究者を活用できることは大きな魅力となってきた。中国の巨大市場に合う技術標準やデザイン開発が可能となるなど、近年では前向きにR&D拠点を設置する企業も増加している。

中国政府の多国籍企業に対する政策は、いわゆる「市場と技術の交換戦略」である。中国への進出を許容する代わりに技術を国内へ導入させるという技術移転政策である。中国企業からすれば、外資企業のR&D拠点の誘致はそのパートナー企業である中国企業に技術移転をもたらすというメリットがある。とはいえ、外資企業が中国企業へもたらしている技術は中国市場攻略のためのR&Dに関するものであって、必ずしも最新技術ではない場合が多い。しかし、多国籍企業を中心とした外資企業から中国企業に技術が急速に移転していることは明らかであり、中国の技術競争力は今後、急速に高まることになろう。

(※1)購買力平価とは、各国で同様な財を購入したときに支払われる金額の比から計算される通貨の換算レートである。各国の物価水準の違いを調整する通貨換算レートとして、国連、OECD等で開発されてきた。
(※2)多国籍企業によるR&Dセンターの設置は、90年代後半から増加し始め、04年末現在多国籍企業のR&Dセンターは600ヵ所を上回ったとされている。
(※3) 傘型企業とは、主に中国現地法人の統括機能として設立された投資性持ち株会社のことをいう。3,000万ドル(約31億円)以上の資本金が必要であるが、多様な優遇措置が与えられる。

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