価格は機能する
2005年04月04日
少子高齢・人口減少社会の中で、子育て支援は急務と言われながらも、保育所に入れない子供、待機児童が問題になっている。保育所を増やすことが必要なのだが、それを建設するコストも、運営するコストも非常に高い。あまり高い入園費を徴収するわけにもいかないから、これは財政負担になる。だから、保育所は増えず、待機児童は減らないと言われている。しかし、利用者のコスト負担割合を、今までよりも少しだけ上げることを考えてみたらどうだろうか。負担割合を上げることによって、待機児童が減少することが考えられる。では、どれだけ負担を増やせば良いのだろうか。
一橋大学の清水谷諭助教授と東洋英和女学院大学の野口晴子助教授の推計によると、1万2000円余計に徴収すれば、待機児童問題は解消するという。現在、月平均で3万円程度の保育料を4万2000円に引き上げれば、待機児童はゼロになるということだ(清水谷・野口『介護・保育サービス市場の経済分析』第5章、東洋経済新報社)。あまりにも簡単な解決策ではないか。
これに対して、そもそも待機児童を解消させることの目的は子育て支援なのだから、料金を上げて待機児童問題を解決するのは本末転倒だという反論があるかもしれない。しかし、待機児童解消の真の目的は、子供を増やすことだ。現在働いていて、子供を生みたいが、保育所が不足しているがゆえに子供を生むことをためらっている女性に子供を生んでもらうことだ。1万2000円余計に払っても生みたいという女性は多いだろう。それに対して、1万2000円高くなるがゆえに、子供を生むことをためらう女性は少ないのではないだろうか。すなわち、保育料を引き上げて待機児童問題を解決すれば、ネットでの子供数の増加が必ずあると考えられる。
こう考える根拠は、アメリカの事例からも得られる。多くの人々が、子供を増やすために学ぶ事例として挙げるのは、北欧やフランスだ。しかし、本当に人口が増えているのは、アメリカである(非ヒスパニックの白人の人口も増加している)。北欧やフランスは、人口減少の速度が日本より緩やかだというにすぎない。アメリカには児童手当もなく、保育サービスへの補助もない。あるのは子供と保育サービス費用の税控除のみである。その中で様々な保育サービスが民間の力で提供されている。自由な保育サービスの供給が高い出生率を維持する例として、アメリカからも学ぶべきではないか。
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