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組織の壁と知の壁

2005年03月11日

栗田 学

三年前に約3,200あった市町村の数は,2006年3月末までに1,900余りにまで減少するという。市町村は言うに及ばず,中央省庁,企業など社会を形成する組織の多くにとって,合併は身近な環境変化となった。当然,合併にはメリットとデメリットが予想される。両者を天秤にかけ,メリットが大きいと判断すれば合併の道を選択する。しかし,合併のメリットとデメリットを見積もることは容易ではない。

企業の場合を考えてみると,一般に利潤の最大化が目標であるからコスト削減と売上拡大の二つが至上命題となる。しかし,コスト削減は合併などしなくても可能であり,したがって,合併のメリットの論点は安定した売上の拡大につながるか否かである。

合併により,人,モノ,カネ,情報という4つの経営資源が一つの組織に集結する。使えるカネの総額は大きくなるものの,その使い道が従来と変わらないなら成長はない。また,社員のスキル向上をとっても,従来どおりのやり方で仕事をこなすだけなら叶うはずはない。そもそも顧客ニーズを満たす新商品を生むことは組織を一つにしたからといってできるものではない。合併のメリットを生むには情報,すなわち「知」の共有が必要で,これによりさらに新たな「知」を創造することが重要と指摘されている。

知」はその性格によっていくつかに分類される。代表的なものに,共有することによって価値を発揮する「知」がある。これは例えば,学校教育によって得られたり,新聞を読んで得られたりするものである。

一方,隠蔽することによって価値を発揮する「知」もある。個人が獲得した専門的なスキルや能力がこれにあたる。しかし,知の共有が必要なら,隠蔽ではなくできる限り開示しなければならない。新たな「知」を創造するにはこの作業が欠かせない。ただし,それは個のレベルで考えれば,自らが保有する知の陳腐化につながる。独自の専門性やスキルを持つことこそプロフェッショナルの前提であり,加えて終身雇用の崩壊等により職場が保証されないならば,知の開示にはマイナスとして作用しよう。知を開示するモチベーションとして,知のギブアンドテイクが行われ,その結果自らの知が向上しなければならない。しかし,これは互いの知を開示してみなければ分からない。それでも自らの知を能動的に開示させるには,個が所属する新たな組織へのロイヤリティをいかに保てるかに行き着く。

企業をはじめ組織の合併は,商品ラインナップの充実や販売形態の効率化といったメリットが注目されがちである。しかし,こうしたメリットは他社が同様の戦略をとれば消滅する類のものであり,必ずしも長期的な売上の拡大につながるとは限らない。永続的な競争力強化には知の共有が不可欠であり,情報システムをはじめツールはそろっている。ただし,それは相互に個の知の開示を図るスタンスがあってこそであり,それを醸成するには組織へのロイヤリティを持つ人材を確保できるかどうかにかかっている。

 

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