社会人再教育によって来るべき変化

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2005年02月09日

  • 鈴木 誠
昨今、わが国でも社会人に対する再教育が積極的に普及し始めた。この背景には、少子化を迎える前に新たに教育サービスを提供するマーケットを確保しようとする教育機関の思惑とキャリア形成に向けた専門的な技術や知識をバランスよく習得する機会を求める社会人のニーズにうまく合致していることが挙げられる。こうした変化はわが国企業にどのような影響を与えるだろうか。

長期的な変化を予想するならば、(1)社会人再教育による知識の標準化、(2)人材の流動化が進み、(3)日本型雇用システムの変化等が考えられる。

まず、社会人の再教育によって、知識が標準化されると見られる。こうした傾向が顕著に見られるのは米国のビジネススクールにおいてである。MBAの教育はすべてパッケージ化され、まさに実際のビジネスにおける管理者として必要とされる講義が行われ、学生はその理解に努める。その結果、知識は標準化されることとなるのである。特に、著名な大学院が採用するテキストはかなり類似しているばかりか、ハーバード・ビジネススクールが作成したケーススタディーを多くの他の大学院で利用に見られるように、同じものを用いるケースが少なくない。つまり、知識の標準化はほぼ達成されている状況に至っている。

知識の標準化と同時に進行するのは、人材の流動化である。たとえば、ワードやエクセルといったソフトウエアの導入によって、同じソフトを利用している限り、経験者であればどこでも作業できる状況が出現した。大学院教育における知識の標準化は人材の能力のボトムラインを認定し、転職による人材市場の拡大を促すと見られる。こうした人材市場の活性化は単に中間管理職の需要を満たすだけでなく、シニアエグゼクティブおよびその予備軍の需給市場を確立する足がかりとなると期待される。

こうした人材市場の拡大はわが国企業の雇用を大きく転換する可能性を持っている。これまで社員終身雇用や年功序列賃金体系を基本としてきた人事システムから、一言で言うならば社員は機能(ファンクション)として採用され、賃金はマーケットで決定されるシステムへの転換が図られるといえる。この結果、企業にとって、新規卒業者の採用に対する価値は喪失し、むしろ、スキルをもった人材の確保と定着が重要なテーマとなってくると考えられる。

では、企業はどのように対応すべきなのか。米国の企業を見渡してみてもその答えは一様とは言えない。ただし、わが国企業と異なる点は人材に対する価値を適正に評価することを極めて重視している点が挙げられる。新規にマネージャーを採用する場合、あるいはCEOを採用する場合、彼らの報酬はいくらが適当であるかどうか考えて欲しい。「平等」ではなく、「公正」な価値判断こそ、来るべき社会の企業戦略の基礎として求められると考えられるのである。

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