税制変更ではずみがつくか、ドイツの年金資産運用
2005年01月19日
ドイツで2005年年初から年金に関する税制が変更された。ポイントは課税繰り延べ措置が一律に適用されることで、年金のための拠出が非課税となり、受け取った年金は課税される。年金を受け取る時の方が一般に所得水準が低いため、税率が低くなり、より少ない税金で済むと見込まれる。また、重要な点は、老後に備えて積み立てを行うべき時期に手元に残る資金が増加し、しかもそれを個人年金等の積み立てに回せば非課税となることである。
この年金税制変更は、企業年金、個人年金といった民間年金の奨励効果を持つことが期待される。ドイツでは、人口高齢化に伴う公的年金の財源不安、その補完手段として民間年金の奨励の必要性は、既に90年代から論じられていた。2001年にまず公的年金拠出率の上限が設定されたが、これは将来の公的年金支給額の削減を前提とした。このため、2002年には民間年金を公的資金で奨励する制度がスタートした。ただ、この制度の利用者はまだ対象者の2割程度とされている。
民間年金の普及が進んでいない原因の一つは、公的年金に対する信頼感の高さであったと考えられる。退職前所得の70%相当の公的年金が支給され、それが年金生活者の所得の8割以上を占める時代が続いたことが背景にある。しかしながら、今後は公的年金の支給水準は横ばいから減少が予想される。2005年年初から、財政負担抑制のため、公的年金支給額の上昇率の決定に、失業者数や年金受給者数を反映させる仕組みが導入された。失業者や年金受給者が増加すれば、年金拠出が減少する一方、年金受給は増加する。拠出者の負担増に歯止めをかけるべく、年金支給額の伸び率が自動的に抑制されることになったのである。最近のアンケート調査では、公的年金に対する信頼感低下が明らかである。
2005年に税制変更・公的年金抑制措置がセットで動き出したことは、個々人の年金設計を見直すきっかけとなり、年金目的商品への資金流入が加速すると予想される。2004年末に保険商品への需要が急拡大し、保険会社は例年の2倍の契約数を報告した。これは、年金税制変更に付随して、保険商品に対する税制優遇措置が2004年末で廃止されたことが原因である。老後資金に対する関心が高まり、しかも実際の対策に動き出した人々が多かったことをうかがわせる。ドイツの年金資金運用は、米英はもとより、オランダなどに比較しても規模が小さく、発展途上である。中長期的な視点から考えれば、手軽さ、税制上の優遇措置、奨励制度の存在等から、中心は保険商品となる可能性が高い。個人年金に加え、企業年金でも保険形式の企業年金が人気を集めそうである。保険の資産運用は、比較的保守的であるため、資金流入が大きくなるのは内外の債券市場と見込まれるが、株式市場への分散投資も期待できよう。
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