起業家予備軍の課題となる起業理念の構築

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2005年01月11日

  • 鈴江 栄二
ハイテクベンチャー創出を通じた日本の国際競争力復活のために、衰弱してきた起業家精神と子供達の理数科学力の回復が重要な課題と言われてから何年かが経過した。にもかかわらず、昨年末においても、日本の小中学生の理数科学力の低下が一段と進行する調査結果が発表されており、今後学力向上に向けた政策の強化がいよいよ急務となってきた。

一方、危機的状況にあった起業家精神の衰弱に関しては、大学発ベンチャーの支援や学生ベンチャーのアドバイスを行っている筆者の現場感覚からすると、ようやく明るい兆しが見え始めたと言える。起業家予備軍である大学生達の起業教育セミナーなどに対する姿勢はここ2年で大きく好転してきている。ビジネスプラン発表内容などのクオリティーも着実に向上している。経済産業省が掲げた大学発ベンチャー1000社創出(2004年度末)は、当初は困難といわれたが射程圏に入ってきた。21世紀に入りネットやバイオの大学発ベンチャーの上場事例が増えてきたが、数年後には大幅な増加が期待できよう。

こうした若い起業家予備軍の成功確率を高めるヒントを得るために、改めて戦後に起業した成功企業の特徴を振り返ってみた。その過程で再認識できた最も重要な成功企業の要素として「事業を通じて世のため人のために役立つという理念をしっかり持つ」ことが挙げられるだろう。終戦後翌年の1946年に設立されたソニーの会社設立趣意書の中には「日本再建、文化向上に対する技術面、生産面よりの活発なる活動」「不当なる儲け主義を廃し..」が掲げられている。

また、1959年設立の京セラの社史によると、創業メンバーたちは「みな一致団結して、世のため人のためになることを成し遂げたい」と誓ったそうである。その後経営理念として「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」が定められた。さらに「日本の優秀企業研究」において主要30社の分析を行った新原浩朗氏が導いた6つの条件の最後にも同様のことが指摘されている。世界の優秀企業の特徴を分析した「ビジョナリーカンパニー」(ジェームズ・C・コリンズ、ジェリー・I・ポラス共著)においても、優秀企業の特徴の一つとして「利益を超える理念・目的(存在意義)を持ち利益はその達成に必要である」という上記事例と類似の趣旨のことが述べられている。

こうした事例をみてくると、社会に如何に貢献するかという強固な理念を起業段階から構築し持続することが、製品開発や販売提携など多様な経営面の壁を乗り越えるエネルギーとなり、健全な持続的成長を遂げる原動力となっている様子が窺える。上述した学生起業家予備軍の意識好転の芽生えをより一層発展させるために、ビジネスプランを充分鍛えていくことが今後の重要な課題となってくる。そのために、起業家予備軍に対しては、先駆者達の起業理念が成長を遂げる原動力となった過程をしっかりと学び取ってほしいと思う。

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