ルールによる定率減税廃止の提案
2004年12月02日
財政運営の効率化を求め、「小さな政府」が望ましいと考える立場から、増税一般には基本的に反対である。安易な増税は、歳出面の改革をなおざりにさせる危険もある。定率減税廃止ということでいえば、“恒久的減税の廃止”は言葉に矛盾があるし、廃止条件の一つである個人所得課税の抜本的見直しについて、具体的内容-控除や税率、国税と地方税の関係をどう改めるのか-が不明のまま減税廃止だけが先行したのでは、先行きが見えにくくなるばかりである。
以上を指摘した上で、しかし、総合的に考えれば定率減税廃止は是認すべきだろう。90年代の直接税に関する政策は負担率、それも限界税率以上に平均的な税率を引下げた点が特徴である。財政赤字が40兆円近い事態と対比すると、3兆円の増税を2年かけて実施できるか否かに終始していては、いざとなっても増税ができないとの思惑を強めてしまう。財政破綻やその際の暴力的増税を避けるために、極端に低い租税負担率を正常レベルに回帰させるべきである。
主な反対論は廃止自体ではなく、タイミングとして来年の景気を睨んでのことと思われる。だが、定率減税がはたしてどれだけ消費を喚起・下支えしてきたか明確でない。ここ数年の消費をむしろ支えたのは、もともと税負担が小さく、定率減税の導入や廃止と関係が薄い高齢無職(年金受給)世帯である。景気後退となれば増税や財政改革が立ち行かなくなるのは確かだが、政治的に減税は容易で増税は困難という意思決定の非対称性も意識すべきである。
減税廃止のもう一つの条件である経済状況には根本的変化が生じていると思われるが、景気が心配であれば、増税法案に客観的・数量的条件を書き込んではどうか。来年前半の実質GDP、資本財出荷、有効求人倍率、消費水準指数など適切な指標を用いて、廃止を年度途中に棚上げする要件をルール化しておくのである。その要件を議論することは、一体どんな環境であれば増税が許容されるのか、されないのかをはっきりさせることにもなる。さらに、その時々の国会や政府の事情で政策が左右されるのではなく、景気と財政構造改革の両方に配慮していることを人々に示すこともできる。
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