年金運用管理とヘッジファンド動向

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2004年11月30日

  • 飛田 公治
当年度の年金運用状況は、経済基調の千鳥足状態が続く国内株式の影響を受け、加えて円高の進行等もあり年度当初の決算見通しの実現が心もとない見通しと思われる。その中で、一昨年以降、国内金利水準上昇のカバーや運用資産のリスク分散の視点から、代替的投資の投入が日本の企業年金ファンドにおいても活発化している。特に、日本の企業年金ファンドでは企業年金財政に余力が殆どないことから、単年度での絶対リターンの要求度合が高い、ヘッジファンドへの投入量が多いという特徴がある。

米国においては、最近の調査によれば、確定給付年金ファンドを中心とした機関投資家のヘッジファンド投資は今後5年間で現在の660億ドルから3,000億ドルにまで達すると予想されている。つまり、株式の期待収益率の低下を見越した「絶対収益の確保」というコンセプトの魅力度が増してきた事に加えて、流動性の面での相対的な優位性が評価されてきたものと言えよう。この巨大な資金流入が現実化するとすれば、新たな投資戦略のみで資金吸収を行うのは困難と考えるのが常識的であろう。つまり、これからのヘッジファンドの世界的傾向としては、マクロ型や先物取引を活用したヘッジファンド等、受け入れ余力の高い既存戦略への資金流入が続くものと考えられるので、一方ではそのキャパシティの限界点を強く監視する必要があるものと考える。

特に機関投資家として年金ファンドが大きく登場してきて、ヘッジファンドへの投資期待が主にリスク分散に眼目がおかれるようになった事から、従来の米国での平均期待収益率12%が平均8%程度低下する反面、運用プロセスの透明性やアカウンタビリティの要求水準の高まりが見られる。ヘッジファンドへの資金流入の高まりは、選別基準の厳格化に繋がっているものと考えるべきであろう。この動きは当然日本においても同様であり、選別基準の厳格化とリスク管理の高度化が図られれば、投資適格対象としての位置付けは、より鮮明なものになるものと考えられる。

特に健全なヘッジファンドの属性については、プロフェショナルな誠実性・倫理性(インテグリティ)と投資技術としての適格性(テクニカル・コンピテンス)が今以上に強く求められよう。投資技術的な適格性を分解してみれば、(1)組織的な管理運用能力(マネジメント能力)、(2)第3者機関による価格照合や売買執行システム等へのオペレーション能力、(3)投資プロセスの堅固力、(4)投資戦略の開発能力、(5)統合的なリスク管理統制力が問われる事になろう。今後、米国及び日本の年金ファンドという機関投資家にその市民権を得ることが出来るヘッジフアンドは、プロとしての誠実性・倫理性を意識しかつ上記の説明力を有するプロダクト・マネージャーによる洗練された顧客対応能力にかかるというべきであろう。

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