情報の純度

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2004年11月09日

  • 栗田 学
かつてダウンサイジングという言葉があったように,業務に使用する情報システムは,すべての意味で大規模化の一途を辿ってきたわけではない。しかしながら,間違いなく一貫して大きくなってきたのは,記憶装置の容量である。使用するディスク容量が年々減少しているなどという話は聞いたことがない。事業活動の資源として蓄積される情報は増加する一方であり,これを受け止める磁気ディスクの技術進歩には目を見張るものがある。

磁気ディスクに欠かせない素材として,希土類と呼ばれる一連の金属元素がある。希土類はその名のとおり少量しかなく,かつ原石は地球上に偏在している。困ったことに希土類を含む原石の多くは,複数の有用な元素が混在している。その上,それらの原石がさらに混在して産出する場合もある。したがって,採掘した原石がすぐに製品を作る上で役立つわけではない。分離を繰り返し,必要とする貴重な素材へと純度を上げていく工程が欠かせない。

分離して有用な物質を取り出すには,まず原石の粒度を細かくして,その物理的・化学的性質が現れやすいようにした後,その性質の違いを利用する。この過程は選鉱と呼ばれ,例えば磁力の大小を利用する磁力選鉱,導電性の大小を利用する静電選鉱,疎水性か親水性かを利用する浮遊選鉱,などの方法がある。当然,もっとも都合よく分離できる条件がある。磁力選鉱で言えば使用する磁石の強度,静電選鉱では電圧,浮遊選鉱では溶液のpH等が分離の成否を左右する。こうした純度を上げるプロセスをいくつも経た素材を用いて,磁気ディスクは完成し,そこに膨大な情報が蓄積される。

情報にもまた粒度がある。例えば企業戦略立案に際し,過去の営業利益の推移だけを見てもさほど役に立たない。貢献している製品/サービスはどれか,地域別にみたらどうなのか,既存/新規顧客のどちらが貢献しているか,製造原価と販管費の割合はどうか。情報の粒度を細かくすることで,それぞれがさらに有用な情報となりうる。

粒度を細かくすれば情報は飛躍的に増加するものの,手を打たなければ情報の洪水に溺れる。したがって,真に必要な情報だけを分離しなければならない。問題は取捨選択の基準をどう設定するかである。選鉱では通常,分離にかける鉱石の性質を精査した上で,選鉱方法と条件とを決定する。情報ではその性質,すなわち意味やインパクトを徹底的に考え抜くことが,基準を正しく決定するための唯一の方策であろう。

希土類と違い,地球上の情報の原石は増えつづけることが予想され,またその偏在も解消の方向にある。あとは情報の純度を上げるツールを,人間の頭脳が持つことだ。

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