京都議定書が変える世界

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2004年11月02日

  • 吉川 満

9月30日、ロシアが閣議で京都議定書批准の方針を決定した。議定書発効には(1)55カ国以上の批准、(2)批准先進国の排出量(90年時点)が先進国全体の55%以上、との両条件を満たす事が必要だった。ロシアの批准で両条件は満たされ、2005年中にも議定書は発効する。1997年に京都で採択された議定書は、2001年に米国が離脱したものの、いよいよ発効の時を迎える。議定書は、どう世界を変えるだろうか。

『市場主義の終焉』。衝撃的な表題で、議定書が潜在的に開く新しい世界の姿を訴えたのは、京都大学の佐和隆光教授だった。行過ぎた市場主義は貧富の差を激しくし、多くの国民には付いていけない。英国労働党、米国民主党などが、『第三の道』を探ろうとしているのは、その現われだ、と主張した。証券界に身を置く筆者は、『市場主義の終焉』とまで思わぬが、市場主義自身が弱者救済のメカニズムを組み込まねば、と思いつつ読んだものだ。

議定書は、2008~2012年の先進諸国の温暖化ガス排出量を全体で90年比5.2%(日本は6%)削減する事を義務付ける。日本は直近の排出量が目標を7.6%上回っていて、早急な削減、もしくは外国等からの排出クレジット取得、省エネ投資が必要だ。日本では企業単位で排出量削減の責任が課される事はないが、様々の問題が生じてくる。環境庁は目標達成の財源として、環境税を主張し始めた。財界は環境税には反対だが、社会責任を果たす手段として、自発的に排出権クレジットを取得する企業は現われよう。企業会計基準委員会はこうした事態に備え、11月4日を期限に『排出量取引の会計処理に関する当面の取り扱い(案)』の公開草案を示し一般の意見を求めている。京都議定書の定める排出権取引はすでに社会のインフラに組込まれ始めているのである。

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