シュレーダー独首相の意外な通信簿
2004年10月29日
「国際競争力を高めるためには、社会保障費用の削減が必要」との診断により、ドイツ政府は年金、健康保険、失業手当等の社会保障制度の改革に取り組んでいる。高水準の社会保障費用が、雇用コストを押し上げ、ドイツでの雇用創出を阻んでいるとの認識である。2002年の年金改革では、公的年金の拠出率に上限を設ける一方、支給水準の段階的な引き下げが決まった。また、2004年初めから実施された健康保険改革により、患者の自己負担が増加した。さらに、2005年初めに発効する失業手当の改革で、3年以上の長期失業者に対する手当が従来より引き下げられ、生活保護と同水準となる。
政府の一連の構造改革に対し、産業界は進捗が遅いことに不満を表明しつつ、その方向性は支持している。一方、国民からは批判が絶えず、シュレーダー首相率いる社会民主党(SPD)と緑の党から成る中道左派政権の支持率は、2002年9月の総選挙以来低下の一途を辿り、総選挙後に実施された州・市町村の議会選挙、EU議会選挙でSPDは敗北を重ねてきた。また、社会保障費削減は家計のマインドを悪化させ、個人消費低迷が長期化する一因となっている。域内で最大の経済規模を持つドイツの消費が伸びてこないために、ユーロ圏は外需への依存度が高い景気回復を余儀なくされている。
ところが、最近になって潮目が変化した可能性が出てきた。構造改革は「必要、やむをえない」という意見が徐々に浸透していると見受けられるのである。今年2月時点では構造改革に反対との意見が55%(賛成35%)であったが、9月末の調査では、賛成48%、反対45%と賛成派が優勢となった。9月26日に実施された最大州のノルトライン・ヴェストファーレン州の市町村議会選挙では、国政では最大野党のキリスト教民主同盟(CDU)が第一党を保持したものの、支持率が前回の50.3%から43.2%に大きく低下。SPDも33.9%から31.6%に支持率が下がったが、一方で緑の党の支持率が7.3%から10.2%に上がったため、与党としては若干ながら支持率が伸びたのである。毎週実施されている「次の日曜日が総選挙ならどの政党に投票しますか?」とのアンケートでは、SPDの支持率は前回総選挙で獲得した38.5%から今年7月には24%まで低下したが、10月半ばに33%に回復した。緑の党の支持率は総選挙時の8.6%から11%に上昇している。
政府の改革がどこまで雇用創出に結びつくか、まだ評価を下すことは難しい。いましばらくは、「痛み」ばかりが目に付き、「成果」がみえてこない局面が続くと予想される。ただ、国民が改革の必要性と、それにどう対処してゆけばよいかを理解することによって、雇用創出・経済活性化という目的が達成される可能性が高まると考えられる。
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