米大統領選挙と為替相場

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2004年10月19日

  • 亀岡 裕次
為替相場の波乱材料になるとすれば11月2日の米大統領選挙だろう。ブッシュ氏が敗れケリー氏が勝利すると、円高ドル安に振れる可能性がある。

自由貿易を標榜する共和党のブッシュ大統領は「強いドル」政策を掲げつつも、為替レートは市場が決めるというスタンスをとっている。一方、民主党のケリー上院議員は貿易に関し保護主義的であり、スーパー301条を復活させ一方的に制裁措置を発動してでも米国を貿易上で優位に導こうというスタンスである。日本や中国の為替介入(自国通貨売り)を阻止すると明言していることから、米国を貿易面で有利にするために円高(人民元高)・ドル安を志向する可能性もある。ケリー氏の経済ブレーンには、第2期クリントン政権(97~01年)で「強いドル」政策を主導したルービン元財務長官やアルトマン元財務副長官が含まれるが、当時に比べ経常赤字の規模があまりにも大きいために同じ政策はとりにくいはずである。

円が変動相場制に移行した73年2月以降のドル・円相場を振り返ると、共和党大統領の就任1年目は73年ニクソン2期、81年レーガン1期、89年ブッシュ(先代)、01年ブッシュのいずれもドル高が進み、そうならなかったのは85年レーガン2期のみである。一方、民主党大統領の就任1年目は77年カーター、93年クリントン1期においてドル安が進み、97年クリントン2期だけがそうならなかった。つまり、共和党政権の場合はドル高に、民主党政権の場合はドル安になりやすく、共和党から民主党に政権が変わったときは必ずドル安になっている。よって、為替市場が「ブッシュ=ドル高、ケリー=ドル安」という期待を抱き、相場がその通り動いても不思議ではない。

しかし、過去の「共和党=ドル高、民主党=ドル安」が単なる偶然という可能性もある。なぜかというと、ドル高進行の73年、81年、89年、97年、01年はいずれも米国の経常収支が改善傾向でドル高が進みやすく、ドル安進行の77年、85年、93年はいずれも経常収支が悪化傾向でドル安が進みやすい環境にあったからだ。政党が為替の方向を決めたのではなく、ファンダメンタルズが為替を決めただけなのかもしれない。

景気減速に伴い米国の貿易赤字は縮小し始め、ファンダメンタルズ面からのドル安圧力はピークを越えつつある。したがって、民主党のケリー候補が勝利した場合、思惑から一時的に円高ドル安が進むことはあっても、そのままドル安基調へと転換することはないだろう。共和党のブッシュ大統領が再選された場合は、円安ドル高基調を後押しすることになるのではないか。

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