「医産連携」を考える

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2004年10月15日

  • 浅野 信久
「産学連携」により、数多くの大学発ベンチャーが誕生し、一部はすでに株式公開を遂げている。「産学連携」が、経済の活性化に寄与していることは疑いの余地はない。それでは、教育と双璧をなす公共サービスである医療ではどうだろうか。「医産連携」について考えてみたい。

国立病院は、国立大学と同時期の2004年4月に独立行政法人「国立病院機構」として、新たなスタートを切った。医療と企業の連携で、まず思い浮かぶのが、企業による病院経営である。病院の株式会社化については、04年8月に公表された、政府の規制改革・民間開放推進会議の「中間とりまとめ」の中で、医療分野に係る4項目の一つに「株式会社等の医療機関経営への参入」として検討事項に挙げられている。これに対しては、厚生労働省は「厚生労働省の考え方」を発表し、反対を表明した。病院の「企業による経営」の将来的可否については帰着点が見えてこない。依然として論議が続いている。また、「大学発ベンチャー」ならぬ、「病院発ベンチャー」の創設は机上では可能だか、実際には乗り越えなければならない壁は少なくなさそうである。

むしろ「医産連携」を考える場合には、医療と企業の関係をより広義にとらえるべきであろう。医療関連や健康産業は言うまでもなく将来にわたり注目できる成長産業である。このため、大企業やベンチャー企業を問わず、医療・健康の周辺ビジネスへの参入は年々活発化している。大手企業がコンソーシアムを形成し病院PFIⅠ事業に乗り出したり、商社が病院経営の支援を手がける子会社を設立したりと、事例には事欠かない。また、病院側においても医療情報システムや機器開発で積極的に企業と連携したり、戦略経営やナレジマネジメントⅡなど企業が実践する経営手法を試行したりもしている。中堅幹部の医師に対するリーダーシップ研修やISO9000をはじめ、企業で実績のある品質管理システムの導入に前向きに取り組んでいる病院も存在する。経営組織面でも、病院と企業の文化は近づきつつある。構造改革特区では、自由診療による一部高度医療に限っては株式会社の参入も認められるようにもなる。医療業界と企業との間の距離は徐々にだが着実に縮まりつつある。「医産連携」の持つ新産業創出ポテンシャルへ改めて注目すべき時期に来ているのは確かだ。

ただし、忘れてはならないことがある。医療の産業化に「効率性と公共福祉性の両立」の視点を欠くことができないということだ。これは、医療や健康産業は公共サービス的側面を持つからである。「医産連携」の持つ社会経済的重要性が認識され、「医療と企業の共生」の適切な方策に関して、医療改革のみならず、経済活性化の両面から議論が活発化することに期待したい。企業と医療関連分野との連携は、投資評価の上でも注目点Ⅲであろう。

Ⅰ)Private Finance Initiativeの略。公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力および技術的能力を活用して行う手法。
Ⅱ)個人の持つ知識やノウハウ等を組織の中で、蓄積・共有し、組織運営に役立てる一つの経営手法。
Ⅲ)例えば医療との連携は、企業にとって新規事業開発やベンチャー企業創生の原動力となる。

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