構造的回復と循環的下降の評価

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2004年10月07日

  • 小林 卓典

先日ある企業の方から、何故日本だけが、かくも大幅な経済成長率の減速を予想されているのか、減速を深刻な事態として受け止めなくても良いのかという質問を受けた。先頃IMFが公表した世界経済見通しによれば、日本の実質成長率(暦年ベース)は04年の4.4%から、05年は2.3%へ鈍化する見通しとなっている。こうした見方は国内のエコノミストのコンセンサスとも一致し、来年の日本経済が大幅な成長率の鈍化に見舞われるとすることは、今や内外に共通した見方となっている。

原油価格の高騰、IT関連需要の調整、米国経済の減速、中国のハードランディング懸念といったものが典型的な要因だが、来年の外部環境はかなり悪化する可能性がある。そのため輸出に牽引されて始まった景気回復は、輸出の減速によっていったん踊り場を迎えることになるが、想定以上の環境変化が起こった場合、景気後退に陥る可能性があるとする意見も最近は増えつつある。

ところで、こうした外部環境の悪化は、当然、日本のみならず世界各国が同時に直面する問題である。しかし、IMFの見通しを見るとユーロ圏、米国、アジア各国の中で成長率がほぼ半減すると予想されている国は日本以外には見当たらない。中国需要やIT景気の恩恵を受けてきたのは日本だけではないから、やはり日本は外部ショックに基づく循環的な下降圧力に弱いという評価を受けているということか。

冒頭の質問に対して、今年の景気が出来過ぎだったのであり、来年は巡航速度に減速する、あるいは需給ギャップの縮小が進んだ結果、潜在成長率程度に減速するのは自然な成り行きといった一見穏当な答え方が可能だろう。何故なら、過去のリストラ努力により、過剰な生産設備、雇用、負債といった構造問題は急速な改善を見せ、今や企業の外部ショックに対する耐久力は増したと解釈されるからである。これは現在の経済見通しにおいて、多くが共有する考え方であろう。

この真偽が試されるのはこれからだが、急速な成長率の鈍化を見込む裏側には、まだ構造的な改善と経済の頑健さに信頼を置ききれない予測者の態度が表れているのは確かである。

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