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良い余白、悪い余白

2004年09月15日

渡辺 浩志

「入り口に 段差あります 十三夜」 良く知られた緑茶の容器に書かれていた俳句である。十三夜の月を老夫婦が見に来たのだろうか、薄明かりの下、互いの足元を気遣う姿が目に浮かんだ。もちろんこれが詠み人の真意かは分からないが、17文字では語りきれない美しい情景を余白に想像して、ホッと一息つくことができた。

ヨン様ら韓国の俳優達が日本の女性から熱狂的な支持を集めている。見た目は日本の俳優に比べて特段秀でているとは思えず、ここでも想像の力が一役買っているのではないかと思う。彼らの言葉は字幕無しには理解できないが、視聴者は彼らの発する言葉と字幕の間の余白に無意識のうちに理想の男性像を投影して、実物を過大に美化しているのではないだろうか。(もちろんこれに加えて、日本人からすれば今更できないような振る舞いを照れもなくやってのけるところにも素朴な魅力があるのだろう。)

この二つの話に共通するのは情報の不足を想像で都合よく補うことで、受け手が自ら感動をつくり出せるところにある。エコノミストであれば、限られた情報の中から、今、足元で起こっている経済のダイナミズムを想像し、悦に入ることが出来れば一人前だろうか・・・??

冗談はさておき、経済の動きは想像だけではなく、きっちりとしたファンダメンタル分析の裏付けをもって語らねばならないのはいうまでもない。ただ、その分析の基礎となる統計データが揺らいでいたら何を語っても砂上の楼閣である。そういう意味で、つい先日発表された財務省の法人企業統計季報の改訂には驚かされた。この統計は企業の財務諸表計数が業種別、企業規模別に詳細に把握でき、マクロとミクロの接点を探る上で数ある統計の中でも横綱級の重要性を持つ。にもかかわらず、この統計について十分なアナウンスや解説を伴わず業種の組替え・新設等がおこなわれてしまったのである。これにより、数十年にわたり蓄積されてきた過去の業種別データとの対応関係は不明確となり、事実上、この統計を用いた分析は大幅に制限されることになった。せめて旧系列の並存、もしくは新系列による遡及改訂などといった、統計の連続性を保つ措置が講じられるべきであろう。

想像の世界では過剰な情報に辟易するよりも、その余白に思いを巡らす方が楽しいが、正確性を要求される統計情報に対しては説明不足という余白は勘弁願いたいことである。

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