日本資本主義再生に必要なこと

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2004年08月18日

  • 松原 英人

家計による投信、株式保有、及び投信からの国内株式保有の状況等を引き続き注視しているところであるが、依然として改革と株価上昇の好循環の形成には至っていない。入手可能なデータから判断する限り、むしろ、長期資金の海外流出傾向など空洞化の進行を懸念すべき兆候が見て取れる。

こうした傾向の最も根本的な原因は、90年代以来採られてきた反市場主義的政策にあるものと思われる。市場介入、人為的株価形成、ゼロ金利などの政策は、企業の新陳代謝を阻害し、個人金融資産から収益機会を奪い、リスク・リターンの関係を大きく歪ませてきた。

本来、図に示す通り、近代資本主義社会において、株式はインフレをヘッジしながら長期的に運用成果を享受できるという意味で、債券利子の複利運用や利子を生まない金保有に優る、ベストの運用対象である。ただし、その最も重要な前提は近代企業が継続企業(ゴーイング・コンサーン)として利潤を再投資することにある。金や小豆などの農鉱産物商品とは違い、株式という紙切れそのものがインフレヘッジの効能を有するわけではない。また、利潤を株主配当するからといって、インフレに打ち勝てるわけでもない。それなら、通常は債券の利払いの方が通常より確実である。再投資の成果としての株主資本増加が株価成長、すなわちキャピタルゲインをもたらすことが、株式投資によるインフレヘッジ機能の裏付けとなる。さらに、資本の出し手としての株主は有限責任で、ということは元本以上の持ち出し無しというオプション付きで、配当金及び株価成長を享受することができることも、株式による突出した投資効率に貢献している。



ゴーイング・コンサーンとしての存在は市場との緊張した関係と表裏一体の関係にある。そこに本来利潤と無関係な公的機関や公的資金が介入し、事業継続に不適応な企業の自然淘汰と経営資源の再配分を阻害すれば、市場機能を阻害し、当然にモラルハザードと株価成長への疑念を生む。
最近になって、金融危機が一段落したとみてか、不適応企業でも、債権放棄や政府系リハビリ機関の関与によって再生を目指すという動きが再度活発化しているようである。

もういいかげんにしたらどうかと思う。ゼロ金利でも生き残れなかった不適応企業の延命によって、日本企業全体の期待値をどれほど押し下げることか。マイナス面は延命による経済効果をはるかに上回っているはずである。また、市場への信頼を取り戻せなければ、市場への資金呼び込みも決して成功せず、空洞化にも歯止めはかからないであろう。90年代以降の「経営に優しい」反市場主義的政策と「失われた10年」の教訓から、我々は長期的な株式投資に適した新しい資本主義を選択すべき時期に至っているはずである。

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